経済

2023.04.07 08:10

「防衛的賃上げ」に踏み切らざるをえない中小企業の本音

「大手企業がうらやましい」

千葉県のある中小メーカーの社長は「大手企業がうらやましい」と本音を漏らす。同社も今春、前年度比で1万円の賃上げを実施。このうち、半分はベア相当分だ。苦渋の決断だったが、「今春闘で大手が相次いで賃上げに踏み切ったにもかかわらず、自社が消極的なままだと優秀な人材が逃げてしまう」(同社長)。
 
前出の中小企業診断士の田島氏も「モチベーション向上よりも、むしろ従業員の不平不満を食い止めることが賃上げの最大の理由」とみる。同氏が接する中小企業には、ベアではなく通勤手当など基本給以外の引き上げでしのぐ例もみられるという。
 
最近の原料や資機材価格などの値上がりも重くのしかかる。前出の茨城県の建設会社トップによれば、重機は依然として品薄で、「注文してもなかなか手元に届かない」という。需要の急回復に供給の追い付かない状態が完全に解消していないとみられる。加えて、「ゼネコンなどの下請け工事が中心の建設会社は受注単価も厳しいだろう」(同トップ)。となれば、賃上げの原資を賄うことすら容易でないのは想像に難くない。
 
コロナ禍の打撃を受けた飲食業界をめぐっても、周辺からは「賃上げどころではない」との声が上がる。「中小企業庁は中小事業者を訪問する下請けGメン(取引調査員)を従来よりも大幅に増やすなどして、(下請事業者が親事業者から不当な扱いを受けないよう定めた)下請法適用の厳格化を図っている」と田島氏。中小企業経営者の生の声を丹念に拾い上げることが「前向きな賃上げ」実現への嚆矢になる。

文=松崎泰弘

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