大山:来場されたキュレーターやコレクター、90年代から日本のアートシーンにずっと触れていた方からも好意的な感想をいただいています。アートフェアには規模が大きいものから小さいものまでいろいろありますが、それらを見てきた人たちが「いい空間だね」と言ってくださったのは、アートシーンからの評価という点でも意義のあることだと思います。
また自分も含めてアーティストの視点でいえば、なるべく多く、多様な人に作品を見てもらうことは基本的によいことなんです。その意味では、これまで美術館に行ったことのないような新しいオーディエンスが「RE:FACTORY」に来てくれたことはとてもポジティブです。販売に繋がるかどうかとは別に、自分の作品を新しいオーディエンスに見せて、反応が返ってくること。これはアーティストにとって喜ばしいことなんですね。その意味で、加藤さんがおっしゃるとおり、エイベックスの強みが「RE:FACTORY」に活かされた。それはアートシーンにとってよいことだと思います。
──3日間のイベントを通じて、印象深かったシーンはありますか?
大山:やはりライブですね。Novel Coreという新進気鋭のラッパー/シンガーソングライターがパフォーマンスをしたのですが、そのステージ上で「クイックターン・ストラクチャー(QTS、大山エンリコイサムの代表的な作品スタイル)」を、巨大なLEDスクリーンを使った映像作品やカッティングシートを用いた壁面作品として展開しました。映像作品はtsuchifumazuという映像ユニットが制作してくれたのですが、その最初の数分間では、僕のルーツでもあるライブペインティングを会場すぐ隣の別室で行い、それをリアルタイムで事前に作り込んだ映像にミックスしたり、ライブ用に作ったTシャツを僕がパフォーマンス中に着用することで、そこにプリントされたQTSがまた映像に映り込んだりと、幾重にも空間が連鎖した、複合性の高い、実験的な表現を実現できました。観客も多く入って、盛り上がった。アートが音楽ライブの演出の一部になるのではなく、両者が等価で成立する「アート作品」になることにフォーカスしたのですが、それがオーディエンスにもしっかり理解してもらえたことを、のちにSNSの投稿を見て確認できました。
加藤:オンラインでもYouTubeで生配信を行ったのですが、8000人もの人が見てくれました。僕らの目指すところでもある、アートの面白さをより幅広く届けていくということで考えると、しっかりとした影響力を持てた取り組みになったんじゃないかと思っています。やってよかったなというのが正直な思いです。