「共感」で一点突破 持続可能なビジネスを展開する秘訣

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日本企業の多くが、新しいマーケティング施策を「魔法の杖」と捉える。しかし、それでは施策の導入という手段が目的化してしまっている。結果、自社で取り組むマーケティング施策が次々と増えていく。現場は疲弊し、どの施策も中途半端となる。このような状況をどうすれば打破できるのだろうか──。

禅から着想を得て、日本発の新しいマーケティングの枠組みを提示した書籍『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版、筆者と宍戸幹央氏の共著)から、内容の一部を再構成する形で紹介したい。「マーケティングZEN」とは、これまでのビジネスのあり方を見直し、無駄を削ぎ落とし、持続可能な環境・関係を意識した、見返りを求めないマーケティング手法である。

今回は、マーケティング施策を絞ることの重要性について解説する。パーパスへの共感を広げていく施策はどれか。この一点で、仕分けしていくのである。結果、共感の輪が広がっていき、現場のやる気は高まる。最終的に、持続可能なビジネスが手に入る。

特定のチャネルに注力する

集客や売り上げのために、思いつく限りいくつものマーケティング施策に取り組むことは、常識と思われている節がある。ブログにポッドキャスト、SNS、オフラインのイベント。あらゆる場所において情報をコンテンツの形で発信し、潜在顧客や見込み顧客とコミュニケーションを取ろうとする。

様々な施策を展開することは、企業の可能性が広がりそうで、正着に思える。しかし、コンテンツ制作に充てられるエネルギーには限りがある。施策の数が多ければ多いほど、コンテンツは多くの人に届かなくなる。

すべてのマーケティング施策において成功することは、よほどの大資本がない限り難しい。同時に、マーケティングで成功している企業の多くが、特定の施策で目立っている。「あの会社のオウンド(自社)メディアはすごい」「このブランドのインスタグラムは定期的にチェックしたくなる」。企業やブランドの代名詞とも呼べる施策が、必ずと言ってよいほど存在する。

そもそも、情報を発信する側としても、複数の施策に取り組むことは、必ずしも効率的ではない。エッセンシャル思考の生き方とリーダーシップを広めるグレッグ・マキューンは、自著で「大事なものはめったにない」と強調する。世の中の大半のものはノイズであり、本当に重要なものはほとんどない。だからこそ、本当に大事なことを見極め、それ以外のことは断るべきだと助言する。

コーネル大学ジョンソンスクール(経営大学院)でマネジメントスキルやネットワーキングを教えるデボラ・ザックは、近年もてはやされるマルチタスク型の仕事術を否定する。マルチタスクは役に立たないばかりか、「そもそも存在しない」とまで言い切る。

脳は一度に2つ以上のことに集中できない。したがって、マルチタスクをしているつもりでも、単にタスクの切り替えをしているに過ぎない。タスクの切り替えを繰り返すと、記憶力と理解力が低下する。人間の特性を考えても、施策を絞ることは合理的判断なのだ。

マルチチャネルで情報発信し、特定の顧客を包囲することで、顧客は「ブランドのことしか考えられない状態」となる。売り上げには貢献するだろう。しかし、真っ当な関係性が構築できているとは言い難い。筆者が愛するブランドはいくつもある。各ブランドから情報を受け取る際のチャネルは、不思議と1つだけだ。勇気を出して、施策を絞ろう。

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文=田中森士

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