本稿では、自社ブランド商品を販売する小売企業(シングルブランド)とマルチブランド小売企業におけるリテールメディアのビジネスチャンスについて考察していきます。
市場規模とビジネスチャンス
パンデミックを機に急増したEコマースにより、リテールメディアはデジタル広告の有望なカテゴリーの一つとして台頭しています。小売企業は、サプライヤーとより密接な関係を築き、ECサイトやアプリにすでにあるトラフィックを収益化することができます。重要なのは、リテールメディアは、小売企業の中核事業である小売業よりも利益率が高いという点です。米国のある家庭用品メーカーの経営幹部は、リテールメディア事業は最初の1~3年は(チームやリソースを構築するために)投資が必要だが、長期的には利益率の観点から非常にメリットがあるとCoresight Researchに語っています。
ブランドは、消費者の購買プロセス全体における認知度を高めようとするために、デジタル上でリテールメディアを利用する機会が多くなっています。リテールメディアは、高度にパーソナライズされたターゲティング機能、広告費の費用対効果の測定、SKUレベルまで支出を追跡できる柔軟性をブランドに提供します。
多くの小売企業は、消費者データを収益化し、利益率を高めるために、自社でRMNを構築するか、テクノロジープロバイダーと戦略的に組んでRMNを立ち上げています。Coresight Researchでは、2022年の世界のリテールメディア産業の売上総額は751億ドルで、2021年から80.1%増加し、最も急成長している広告チャネルのひとつであると推定しています。
図1. 世界のリテールメディア広告収入(10億米ドル)
(図内の訳、コメント「世界のリテールメディアの売上は過去2年間で急激に伸びていると推定される」)
出典:企業レポート/Coresight Research
米国専門小売業のリテールメディアにおける新たなビジネスチャンス
1. 専門小売企業にとってのオンサイトおよびオフサイトのリテールメディアのビジネスチャンス
食品、医薬品、大型小売店は、リテールメディアにおける主要プレイヤーです。しかし、現在、多くの専門小売企業が、広告主の広告宣伝費のシェア獲得のためにRMNを構築しています。2022年8月にCoresight Researchが米国の小売企業を対象に行った調査によると、10社のうちほぼ9社、および同様の割合の専門小売企業が、現在、ブランドパートナーにリテールメディアを提供していることが分かりました。提供していないごく一部の企業でも、44%が今後2年以内に、さらに28%がいずれは提供する予定だとしています。
通常、小売企業はRMNを利用することで、自社所有のコンテンツ(オンサイト)およびその他のデジタルコンテンツ(オフサイト)に掲載する広告を通じて消費者にリーチし、ファーストパーティデータを活用して広告パートナーに価値を提供します。
図2. リテールメディアのフォーマットと利益率
出典:Coresight Research