カマレンギらは、ルリオーストラリアムシクイの他者を助ける意志を試すために、同じ繁殖グループの個体、同じコミュニティーの個体、およびコミュニティ外の未知の個体、それぞれの発した救難信号の録音を再生し、受信したすべてのルリオーストラリアムシクイの応答を記録した。
「ルリオーストラリアムシクイは、自分が助ける相手が何者であるかに関して注意深いことがわかりました」と論文共著者で行動生態学者でオーストラリア国立大学(ANU)名誉教授のロバート・マグラスは声明で説明した。「彼らは同じ繁殖グループの鳥たちのためには命や翼を危険にさらしますが、単なる知り合いを助ける時にはもっと慎重になります」
では、未知のルリオーストラリアムシクイが近くで助けを求めたら何が起きるのか?
「よそ者に対しては、驚くほどに、助けを求める声を完全に無視しました」
意外にも、この単純な研究は重層社会を生きる動物の意思決定過程を試験した初めての試みだった。
「人間同様、異なる社会的階層は異なる機能を持っているようです」と論文の共著者で、ANU准教授、チューリッヒ大学教授およびマックス・プランク動物行動研究所アフィリエーテッド・サイエンティストを務める行動生態学者ダミエン・ファリンはいう。ファリンは、動物の各個体がどのように社会情勢を見極め、社会生活がどのように個体の生理と環境の間の相互作用に影響を与えるかを理解する研究を専門にしている。
要約すれば、重層社会に生きていることは、ルリオーストラリアムシクイが、誰とどの程度協調すべきかを判断するのに役立っている。異なる社会階層における協調には異なる社会的機能がある可能性が高い。
「中心となる繁殖単位は、鳥たちが必要なときに価値の高い支援を受ける機会を与え、一方、親しい仲間の幅広い社会は、捕食者に直面した鳥たちに数の力を与えます」とファリンは指摘した。
親族レベルの重層社会がもたらすその他の利点として、グループの団結、生存および繁殖の力を高めることが挙げられる。コミュニティーレベルでは、近隣の繁殖グループ同士による同盟が、捕食者に対する鳥たちの防御力を高め、グループ間の好戦性を抑制する可能性は高い。
人間とルリオーストラリアムシクイは、進化的関係においては極端に離れているが(最後の共通祖先が生きていたのは少なくとも2億年前)、この小さな鳥たちが見せる協力行動の複雑なパターンが、私たちにとってこれほど馴染みがあるのは実に興味深い。これが示唆しているのは、重層社会は古代の革新であり、多くの異なる種が独立に、多くの進化を重ねたものであるということだ……、人類が出現するずっと前から。
出典:Ettore Camerlenghi, Sergio Nolazco, Damien R. Farine, Robert D. Magrath, and Anne Peters (2023). Multilevel social structure predicts individual helping responses in a songbird, Current Biology | doi:10.1016/j.cub.2023.02.050
(forbes.com 原文)