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2023.03.31 20:00

アントレプレナーシップと中間力〜「Art & Entrepreneurship Tokyo(AET)」で考えるいま求められる中間人材とは

「有楽町アートアーバニズムプログラム」、通称「YAU(ヤウ)」を運営する三菱地所とForbes JAPANとのコラボーレーションによる新たなプロジェクト「Art & Entrepreneurship Tokyo」の第2回目として、「アントレプレナーシップの起源と社会への実装」をテーマにセッションが行われた。(第1回目の記事はこちらからお読みいただけます)


YAUとは「有楽町アートアーバニズムプログラム」の略称で、三菱地所が実行委員会として参画する、実証的な街づくりのこと。現在は有楽町ビル10階にあるスタジオを拠点としてアーティストの活動を呼び込み、ビジネス街である大手町・丸の内・有楽町エリアの立地企業と協働し、アートとビジネスを掛け合わせながらイノベーションを起こしていく仕組みの構築に取り組んでいる。

第2回目は登壇者としてNature Architects代表取締役 CEOの大嶋泰介(以下、大嶋)、スタートバーン代表取締役の施井泰平(以下、施井)、そしてモデレーターにN-ARK 代表取締役の田崎有城(以下、田崎)を迎えた。今回のテーマは「アントレプレナーシップと中間力・中間人材の必要性」だ。

今回のセッションでは、ビジネスを「実行力」・「社会実装」と定義し、一方でアートやサイエンスをビジネスと対になる「批評力」・「真理探究」としたうえで、この両者を行き来する大嶋や施井のような人物を「中間人材」と位置付けた。

大嶋は科学者、施井は美術家としてキャリアをスタートした後に、起業し、経営者となった。批評したり、探究したりするといった、いわば抽象的なフィールドと、ビジネスという具象のフィールドを行き来するふたりは、抽象と具象の間に立つ人間であり、そのため、このセッションにおける「中間人材」と呼べるのだ。

現在の日本では、ビジネス側にいるか、あるいはアートやサイエンス側のどちらかだけに属している人がほとんどだ。だが、目まぐるしく社会が変化・進化していくなかで、大嶋、施井のような中間人材こそが新たなイノベーションを生んでいくのではないだろうか。そんな観点から、このセッションはスタートした。以下に、セッションの一部を抜粋してお届けする。

田崎有城 N-ARK 代表取締役

田崎有城 N-ARK 代表取締役

 理想を実現するためにはアントレプレナーにならざるを得なかった

田崎:本日は、大嶋さんと施井さんに起業する前のバックグラウンドや、経営者となったきっかけについてお話しいただき、その過程でどのように社会課題を発見したのかをお聞きしていきたいと思います。その前に、まずは私自身の自己紹介からさせていただきます。

私はもともと、考古学、建築、アートを専攻し、デザイン業界に入りCGやインスタレーションなど手がけるようになりました。その後、2015年頃からベンチャーキャピタルファンドのリアルテックファンドのメンバーに加わり、クリエーションやスタートアップの立ち上げに携わるようになりました。

活動が多岐に渡っていくに連れて、デザインとアートの違いや、アントレプレナーシップとは何か、と人から聞かれることが増えていきました。その説明のためにつくったのが下の図でした。

出典:N-ARK

出典:N-ARK


この図では、サイエンスを基礎科学・研究と位置付け、これを「問題提起する力・批評力」、つまり抽象や概念のフィールドにあるものと定義しています。その対(つい)の関係にあるのがテクノロジーで、これは「実行・社会実装」、つまり具体的・具象のフィールドにあるといえます。

同様にして、アートの対にデザインがあり、アントレプレナーの対にはビジネスがある。現在の日本社会は、この区別が曖昧になってきています。そのため、この間に立って両者をつなぐ力をもっている人がとても重要になっているのです。

私自身は、もともとデザイナーとして具体的な行動をとる側で活動していましたが、突き詰めるうちにアートや研究にも携わらなければ自分の活動が行き詰まると感じて、やむにやまれず、中間人材になっていった経験があります。それが、本当に大変だった。まったく別のフィールドに頭を切り替えないといけなかったからです。おそらく私と似たよう苦労をしたであろうおふたりにどんなお話を聞けるかと、今日は楽しみにしてきました。

まずは施井さんから、自己紹介をお願いします。

施井泰平 スタートバーン代表取締役

施井泰平 スタートバーン代表取締役


施井:最初に僕の経歴を一言でまとめると、自分がアーティストとして活動するために、アートを支えるインフラをつくるために経営者となりました。自分の活動の軸は「美術家」だという意識のほうが強くて、自分の肩書きを言うときには最初に「美術家」と言ってから、「スタートバーンの代表取締役です」と続けています。

経歴について細かく話していくと、子どものときに「アーティストになる!」と決めて、多摩美術大学の油絵科に進みました。ところが、2001年に大学を卒業したとき、どうすればアーティストになれるのかがわからなくて途方に暮れたんです。有名なアーティストやアート作品を見知ってはいたもののそれをつくれる存在に至る方法がわからなかった。

どうしたらアーティストとして成功出来るかを真剣に考えていた時に美術史を見直していくと社会の大きな変化に呼応し、その時代の象徴となるようなアート作品が残っていることに気づきました。そこで、目をつけたのがインターネットでした。01年ごろというと、Googleが台頭する直前の時期です。これからは情報の時代が来ると察知して、その世界に飛び込むことを決意しました。14年にスタートバーンを創業してからは、活動の範囲がブロックチェーン、NFTへとつながり、現在に至ります。

なぜアーティストを目指した僕がブロックチェーンやNFTにつながったかというと、2006年に元々アートプロジェクトとして情報社会のインフラを考えていた際、コンピューターネットワークを活用して作品の二次流通時にアーティストに還元金を送るシステムを発明し日米で特許を取っていたことがきっかけになっています。それを社会実装することが一個人では到底不可能と感じたことが起業のきっかけです。起業後は通常のウェブサービスを構築して同様のシステムを展開しようとしたけど、一つのサービス内に作品の流通を留めなければ二次流通の管理が出来ず、どうしようかと悩んでいた時にブロックチェーン技術に出会い、活用の可能性に目を向けました。35歳で大学院に通い始めて自分でも勉強しましたし、エンジニアを集めてチームをつくり、基盤を構築しました。いくつかのプロトタイプを経て、最終的に完成させたのはアート作品をちゃんとトレースして二次流通時にもアーティストに還元される仕組みです。

僕のこれまでの経歴は、アーティストを志したものの、アーティストとして生計を立てる術がなかったことに問題意識を感じ、自分がアーティストとして生きていくためのインフラをつくってきた、とも言い換えることができます。システムの開発当時からずっと、いまでも「NFTは楽しく使えるし、時代を隔ててアートを支えていくインフラである」というのが、僕の主張です。

大嶋泰介 Nature Architects代表取締役 CEO

大嶋泰介 Nature Architects代表取締役 CEO


大嶋:僕は東京大学の研究者としてキャリアをスタートし、メカニカル・メタマテリアル、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションの研究に従事してきました。

17年に設立したNature Architectsは、設計会社です。メタマテリアルを活用した設計事業を行っています。AIを使って必要な機能からダイレクトに部品を設計することもあります。過去の事例で言うと、室外機の音がうるさい、という課題を解決するために、室外機の振動をとって音を静かにする部品の開発などを行っていたりします。

「絶対座標」「夢中力」をもっている人は強い

田崎:おふたりの自己紹介を聞いてあらためてお聞きしたいのが、なぜ、その技術をつくろうと思ったのか、ということです。私自身は、「生き残るためには、技術をつくることと、アートやデザインの両方を自分でやらないといけない」と覚悟したことがあるから、おふたりのことはよくわかります。しかし、社会的にはそうではない。「どうして両方やるんですか?」と、驚かれることが多いのではないかと推察します。いかがですか。 

施井:技術を獲得した経緯は何か、という質問に答えるとすれば、アーティストとして生きていくためにはブロックチェーンやNFTを使った技術を獲得していくしかなかったから、としか言いようがない気がします(笑) 最初に田崎さんもおっしゃっていたけど、とにかくそのときは、自分が生き残っていくために必死でしたから。「火事場の馬鹿力」ではないですけど、本業でないことも身につけるパワーが湧いてくるんですよね。

10歳のころにアーティストになりたいと思ったのが僕のすべての始まりで、現在のスタートバーンの経営者としてのすべての原動力も、その思いの延長線上にあるんです。自分が目指すものがあって、そこに向かって行くために技術を獲得せざるを得なかった。

田崎:施井さんのお話を聞いていると、自分が生きていくうえでの絶対座標をもっている人は強いな、という気がしてきますね。

大嶋:「絶対座標」という言葉は「オブセッション(取り憑かれたように夢中になる)」と言い換えることもできますよね。僕も自分の取り組む事業にオブセッションがありますし、夢中になる力は人よりも強い気がします。すぐに頭がそれ一色になる、というか。

田崎:ここまでの話だと中間人材になる素質は生まれながらにしてもち合わせているもの、という印象もありますが、マインドセットによって中間力を身につけることもできるものなのでしょうか。

施井:僕は、絶対的な指標をもっている人には、天然な人とロジカルな人の2パターンあると思います。だから、心がけ次第で中間人材になることはできるのではないでしょうか。

僕は最初に目指したのがアーティストなので天然に見えるかもしれないけれど、自分ではロジカルな人間だと思っています。ずっとひとつのことに向かっていく、っていうのは、僕の生き方の戦略なんですよね。

田崎:ありがとうございます。おふたりがアーティストとサイエンティストであったこととアントレプレナーシップを抱くにいたったことへのつながり、そして社会課題との関係性が見えてきたのではないでしょうか。

すべての社会人がもつべき「いいアントレプレナーシップ」とは?

最後に、会場にお越しくださった皆さんからの質疑応答の時間にしたいと思います。

——質問:大嶋さん、施井さん、田崎さんにお聞きします。「いいアントレプレナーシップ」とはなんだと思いますか?

施井:未来に賭ける気持ち、でしょうか。いますでに価値や需要があるものや、みんながすでに好きだと思ってやっていることに目を向けるのであれば、アントレプレナーは必要ないんですよね。いまは評価されていないけど、でも将来的に確実に重要になるだろう、と自分が信じたものを掘り下げていくことが大事なのではないでしょうか。

田崎:僕は高速回転することが大事だと思いますね。今日のセッションで絶対座標や、一個のことに向かっていく、という話題が出ましたが、ブレてもいいと僕は思うんです。その代わり、動くスピードを落とさないこと。

例えば、空中のヘリコプターを見たとき、そこで止まっているように見えるんだけど、プロペラは超高速回転していますよね。人間も同じで、軸がブレていないように見える人ほど、実は超高速ドライブしていることはあるんじゃないかな。止まらずに、スピードを維持して動き続けることが大事だと思います。

大嶋:「アウフヘーベン」というか、物事を融合させていく力って大事なのかなと思います。例えば日常生活のなかのコミュニケーションでも、一見、対立しているように感じるのだけど、よく聞いてみると本質は同じ、ということがあったりしますよね。

社会のなかの事象でも、対立しているように見えることが、実は根底ではつながっていたりする。だから、自分のやりたいことをどうやって社会とつなげていくか、そこを探るためのコミュニケーションをとる力や、自分のやりたいことを言語化する能力を高めることが必要なのではないでしょうか。 

——会場に集まった聴講者からの質問が止まず、盛況のうちに幕を閉じた「Art & Entrepreneurship Tokyo」の第2回目。次に予定されている第3回目では、一体どのようなセッションが繰り広げられるのか期待したい。

第3回目の詳細は、近日中にForbes JAPAN特設サイトにて告知予定。
※イベントは終了しました。3回目のレポート記事はこちらからご覧いただけます。


YAU 有楽町アートアーバニズム
https://arturbanism.jp/


大嶋泰介(おおしま・たいすけ)◎東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系博士課程単位取得退学。東京大学で独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC1)として研究を行った後、2017年5月にNature Architectsを創業。

施井泰平(しい・たいへい)◎2001年、多摩美術大学卒業。2014年、東京大学大学院在学中にスタートバーンを設立。現在世界中のNFT取引で標準化されている還元金の仕組みを2006年に日米で特許取得した。

田崎有城(たざき・ゆうき)◎世界初のリアルテック特化型クリエイティブファーム・KANDOの代表。リアルテックファンドメンバーとして、多数のテックベンチャーの支援にも携わるほか、2021年、気候変動に対応する海上建築スタートアップ「N-ARK」を創業するなど、活動は多岐にわたる。

Promoted by 三菱地所 / text by Ayano Yoshida / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

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