ビジネス

2023.04.02

韓国EV電池メーカーが宣言 「私たちが世界一になれる理由」

EV用電池メーカー「SKオン」のチ・ドンソプCEO(共同最高経営責任者)

チがとりわけ誇らしく感じているのはSKオンのEV電池の防火性だ。これまでに製造された約3億5000万個の電池で発火したものはひとつもなく、その無事故記録は他の追随を許さないという。この実績は「Z折り」と呼ばれるSKオン独自のセパレーター技術のおかげだとチは指摘する。

「私たちの電池から火が出ることは決してないと断言できます」(チ)SKオンの現在の製品群には、高ニッケル電池、リチウムイオン電池、そしてリチウム、鉄、リンの化合物が基盤のLFP電池がある。低価格帯の自動車に搭載される種類の電池は、エネルギー密度が60%程度で、頻繁な充電が必要になる。電池の耐久性の課題を克服するため、同社は液体ではなく固体ベースの電池や、従来のEV電池より小型の電池を開発中だ。角形電池は長距離走行に適した安定性を提供し、軽量な薄い板状のラミネート型電池は携帯性が高く小型EVに用いることができる。

この1年で、SKオンの成長速度は複合企業であるSK全体の拡大に貢献した。22年5月、韓国の公正取引委員会は「持続可能なエネルギー会社」への投資に後押しされ、SKが資産規模でヒョンデ(現代自動車)を抜き、サムスンに次ぐ韓国2位の企業グループになったと述べている。韓国のトップ5の企業の順位がこの12年で初めて入れ替わったことになる。SKオンの隆盛はSKのグリーンエネルギーへの方向転換も如実に示している。ビジネスの半分以上を石油と石油化学製品から生み出している企業にとっては、劇的な変化だ。

チはSKでそのキャリアを築いてきた。ソウル近郊の利川で生まれたチはソウル大学で、1987年に物理学の学士号を、90年には経済学の修士号を取得。卒業後は、韓国初の石油精製会社、油公の事業企画部で働き始めた。その後、一連の合併で油公がSKグループの一員となると、グループ内の通信、エネルギー、電池製造部門をわたり歩いて管理職の階段を上っていった。

SKオンは2025年までの上場を目指している。22年3月、同社がカーライル・グループやブラックロックなどの未公開株投資会社と協議を行い、新規株式公開(IPO)に先立ち31億ドルの資金を調達しようとしていると韓国メディアが報道。その2カ月後、SKオンは欧州で事業を拡大するために20億ドルの銀行融資を確保したと発表。自社のIPOの展望が開けたとした。

チによると、SKオンはすでに先を見据え、特定の車種用の電池を開発中だという。

「例えばピックアップトラックなどの商用車で、エントリーモデルや低価格EV用の電池を搭載したものも出てくるでしょう」(チ)

充電インフラがより広く整備され、利用しやすくなれば、市場もまた発展するだろう。EV市場はいまだアーリーステージにあるのだ。


チ・ドンソプ◎SKオンの共同最高経営責任者(CEO)。ソウル大学で物理学の学士号と経済学の修士号を取得。石油精製会社、油公の事業企画部でキャリアをスタート。油公とSKグループの合併後、通信やエネルギー、電池部門などでキャリアを積み、電池部門がSKオンとしてスピンオフすると、CEOに就任した。

SKオン◎韓国有数の財閥SKグループ傘下のEV電池メーカー。2021年10月、エネルギー会社SKイノベーションからスピンオフした。現在、世界第5位のEV電池サプライヤー。高ニッケル電池、リチウムイオン電池、LFP電池などを製造。現在、欧州、中国、米国に7つの工場を有す。25年のIPOを目指している。

Courtesy of SK On 文=キャサリン・ワン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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