主要EV市場に近い海外工場があればEV組立ラインへの運搬費用の削減に役立つと、米国の市場調査会社ガイドハウス・インサイツでEモビリティを担当するサム・アブールサーミドはこう指摘する。
「電池は大きくて重く、輸送の危険が伴う製品です。自動車の生産、販売が行われる土地で生産すれば、物流コストを大幅に下げることができます」
アブールサーミドによれば、フォードやフォルクスワーゲンといった欧米の主要な自動車メーカーの大半は電池生産に直接投資している。SKオンも両社のサプライヤーであり、米国市場に目を向け、ジョージア州コマースに工場を構えている。
米国は、いまや世界3位のEV市場だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のEV販売において欧州の16%、中国の14%に続く4.5%を占めている。22年7月、SKオンはフォード・モーターとの合弁事業ブルーオーバルSKを立ち上げた。これは、フォードが計画するEV生産事業のブルーオーバル・シティに伴う巨大プロジェクトだ。ケンタッキー州とテネシー州の3つの新工場に計89億ドルを投資。25年操業開始の予定だ。フォードはウェブサイトで、ブルーオーバル計画は「米国の自動車メーカーが一度に行う製造への投資としては史上最大」としている。
独自のEV電池の技術を強みに
そうはいっても、SKオンは同業他社と同様に、主にコバルト、リチウム、ニッケルといった、電池に欠かせない材料であるレアメタルの激しい価格変動に直面している。IEAの22年5月の報告書にはよると、新型コロナのパンデミック下では、EV販売の急増で電池の供給網の弾力性が圧迫された。EV需要が原材料の供給を上回る恐れがあったためだ。レアメタル価格は、主にロシアによるウクライナ侵攻と継続中のその紛争によって急騰している。ロシアは世界の高純度ニッケルの20%を、ウクライナは世界のリチウムの30%を供給している。リチウム価格は22年5月までに21年初めの7倍以上に値上がり、IEAが22年の電池価格が15%上がる可能性を予測する事態となった。原油価格も上昇したため、EV価格上昇の衝撃は相対的に緩和されている。また、各国政府が環境負荷への考慮からEV購入費を補助しており、EV電池の需要を後押ししている。
チによれば、SKオンを世界1位の座に押し上げるのは同社の特許技術であり、SKグループが10年がかりで行ってきた電池研究の結晶だ。SKオンは、今後2年間で少なくとも10億ドルを研究開発に費やし、ニッケル含有率の高さが特徴の独自のEV電池に力を入れる予定だ。この電池はリチウムベースの電池よりエネルギー密度が高いため、より燃費に優れ、EVの走行距離を伸ばせる。
「SKオンの急成長は、私たちの電池の技術力と質が市場に認められたからです」(チ)
SKは12年に、世界で初めてニッケル含有率が60%を超えるEV電池を開発している。
ニッケルには、別の意味での利点もある。現在、リチウムやコバルトが見舞われているような供給上の制約が存在しない。ニッケルはEVが台頭するずっと以前から、ステンレス製造のために増産されているからだ。
SKオンは22年1月以来、ニッケル含有率90%という珍しい種類のEV電池を量産しており、この電池はフォードの新しいEVピックアップトラック、F-150ライトニングに搭載されている。F-150はフォードで最も人気の車種のEVで、22年発売だ。