いつ復活の手ごたえを感じたのか尋ねると、JTBを率いる山北栄二郎はこう答えた。
JTBの業績が急回復中だ。2023年3月期第2四半期連結決算は、売上高が前年同期比115%増の3863億円に。営業損益はまだ47億円の赤字だが、前年同期より284億円増と大幅改善だ。
売り上げ回復は国内旅行の復活に加えて、旅行以外のビジネスが立ち上がってきたことが大きい。
実はJTBは約20年前から自社のビジネスを「交流創造事業」と位置づけ、旅行にとどまらない事業展開をしてきた。20年11月発表の中期経営計画では、事業を「ツーリズム」「エリアソリューション」「ビジネスソリューション」の3つに整理。
例えばエリアソリューションでは、ふるさと納税、MaaSなど地域課題をDXで解決するビジネスを展開。ビジネスソリューションでは、MICEやHR領域も手がける。こうしたビジネスがコロナ禍を機に加速して、冒頭の発言につながった。
打ちひしがれつつも前を向く社員の強さを誇らしげに語る山北だが、本人もレジリエンスは負けていない。
社長就任は1回目の緊急事態宣言が解除された直後の20年6月。就任前から財務面での応急処置に追われていたが、「絶望感はまったくなかった」という。
「旅行は世間で不要不急と言われました。しかし、旅は不急かもしれませんが、不要になることはない。絶対に戻ってくる確信がありました」
社長就任後は、その思いを社員に伝えるためにコミュニケーションを重ねた。約300人のマネジャーとは一人ひとり1on1。移動解禁後は、地域拠点150カ所を回って話をした。
伝えるのはポジティブな話ばかりではない。JTBは構造改革で約8000人の人員を削減している。伝え方で気をつけたのは透明性だ。「人は悪いこと以上に、いまどうなっているのかわからないことに不安を覚えます。不安をエスカレートさせないためには、洗いざらい隠さずに状況を伝えることが大切。その結果、後ろ向きに去った人ばかりではなく、『交流が戻ったらまたやりたい』と言ってくれた人も大勢いた」
人の交流はなくならない─。その信念は山北のなかでいかにして育まれたのだろうか。
山北は高校生のころからBBCラジオを聞くなど海外に関心があった。大学では英語部に入部して語学力を磨いた。就活では「テレックスの音や海外についての会話が漏れ聞こえてきた。ここはリアルに国際交流をやる会社」と日本交通公社(現JTB)を選んだ。
入社2年目の旅はいまでも忘れられない。法人担当で、石油関係の顧客をアラブ首長国連邦にアテンドした。