世界の主要市場で天然ガスの需要が急増する中、カタールは現在、巨大なノースフィールド・ガス田の生産能力を大幅に拡大するべく、多額の投資を行っている。フィッチは、この生産能力拡大計画の第1段階が2026年から本格的に歳入に反映され始め、翌年には第2段階が始まると見込んでいる。ノースフィールド・ガス田の生産量が増えれば、政府の財政均衡に必要な損益分岐点の原油価格を、現在の1バレル57~58ドルから50ドル未満に引き下げることも可能とみられる。そうなれば、今後原油価格が予想通り下落しても、カタール政府は余裕を保つことができる。
カタールは昨年自国開催したサッカーW杯が終わったことで、交通機関やホテル、競技場といった関連施設に多額の投資をする必要がなくなった。フィッチは、カタール政府が「経済の多様化を目的とした新たな支出に目を向ける可能性が高い」としながらも、長期的な原油価格見通しの1バレル53ドルで推移すれば、財政黒字を維持できるとみている。
ノースフィールド・ガス田の生産能力拡大により、国営カタールエナジーの液化天然ガス(LNG)生産量は、現在の年間7700万トンから2025年には1億1000万トンに、27年には1億2600万トンに拡大すると見込まれている。このプロジェクトには約125億ドル(約1兆6500億円)の費用がかかると見積もられており、少なくとも一部は国債の発行によって賄われる予定。
しかし、フィッチはカタールの国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率が下がり続けていることを挙げ、最大だった2020年の85%から今年は45%程度に、来年は42%程度に下がると予測している。カタールには安定した収入源があるため、政府は債務の借り換えではなく、満期を迎えるごとに返済を選択している。年内に約75億ドル(約9900億円)、来年にはさらに約48億ドル(約6300憶円)を返済する予定だ。
一方、W杯終了後は国内経済に陰りが見られる。フィッチは、カタールのGDP成長率について、大会が開催された昨年の4.8%に対し、今年はわずか0.7%にとどまると予測している。他方で、隣国のバーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)による断交が2021年に終了したことで、周辺地域の地政学的緊張が緩和され、好影響を与えていると説明。「ロシア産天然ガスへの依存度を下げようとする欧州の動きによって、世界のエネルギー市場でのカタールの重要性が高まりつつある」ことを挙げたほか、カタールは欧米諸国とイランやアフガニスタンの政権との仲介役としての立ち位置の確立にも成功していると評価した。
(forbes.com 原文)