政治

2023.03.29

なぜTikTokは、米議会で真剣に議論され、禁止されようとしているのか?

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「認知戦」と言われる第6の戦争

しかし事ここに至り、再度、全面禁止が取沙汰されている。米中関係の急激な悪化によるものだ。今後「戦争状態」になったら、TikTokを通じて仕掛けられる米国内の混乱に対処するというのはよくわかる話だ。

さらに最近、気になる事件もあった。シリコンバレー銀行破綻に続いた複数の銀行の破綻及び取引停止の連鎖だ。預金者が一気に預金を引き出すことで起こる、いわゆる取り付け騒ぎが破綻のトリガーになったのだが、その原因としてイエレン財務長官も言及したソーシャルメディアでの噂の拡散だ。

例えば、米中が事を構えることになったら、ソーシャルメディアで米国内の金融不安を煽り、火力を用いずして米国社会に破壊的ダメージを与えることも可能だ。

もう少し具体的に言及すると、中国がフェイクニュースを複数作成し、ユーザーデータを用いて各ユーザーの心理に最も響くであろうものを1億人以上の米国民にピンポイントに届け、フェイクニュースを否定するような投稿に関しては届かないように工作するというようなことも想定できる。なんなら、影響力のあるインフルエンサーだけフェイクニュースを仕掛けて、陥れてもいい。

これは各国で真剣に検討されているリスクであり、陸、海、空、情報、宇宙に続く第6の戦場である人間の認知空間を舞台にした「認知戦」と言われるものだ。このようなこれまでの火力以外の争いも含めた現代の戦争をNATOでは「ハイブリッド戦」、中国では「超限戦」と呼んでいる。

つまり、TikTokがどの程度中国政府のコントロール下にあるのかは、国家安全保障の究極である戦争の問題として認識されているのだ。本当に独立している、なんならTikTokが米国政府のコントロール下に入るというところまでやらないと、この問題は解決しないということだ。

もちろん、そのようなことはTikTokも承知していて、用意周到にこのポリティカルリスクに備えていたのだろう。TikTokは米国文化により浸透し、クリエイターとして生計を立てる米国人も増えたので、これを禁止したら、経済に悪影響を与えるという説も言われるようになっていたし、TikTok側はユーザーデータの保護も約束している。

3月23日には周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOが米議会で証言に立ち、TikTokは中国とは既に切り離された米企業であり国家安全保障に悪影響を及ぼさないという主張を行った。

デジタルの技術や文化に明らかに疎い口調でTikTokを追求しようとする米議会議員たちに対し、彼らよりも明らかに20歳から30歳は若く見えるハンサムな周CEOが、5時間にも及ぶ議会公聴会で1人毅然と知的で冷静な返答を行っていく姿は話題になり、TikTokに対するシンパシーや彼自身のファンも生み出した。
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文=重枝義樹

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