森羅万象が調和した
新しい時代を目指して
ブルネロ・クチネリが唱える
“人間主義的資本主義”の薦め
パンデミックや戦争、
インフレが世界を揺るがしている現在。
ブルネロ・クチネリ氏が提唱する
人間主義的資本主義は、
ビジネスと資本主義社会を
豊かな未来へと導く道しるべである。
Direction by AKIRA SHIMADA(Forbes JAPAN)
Text by YASUHIRO TAKEISHI
Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版
パンデミックや戦争、インフレが世界を揺るがしている現在。
ブルネロ・クチネリ氏が提唱する人間主義的資本主義は、
ビジネスと資本主義社会を豊かな未来へと導く道しるべである。
Direction by AKIRA SHIMADA(Forbes JAPAN) Text by YASUHIRO TAKEISHI
2018年にソロメオ村に建設されたワイナリーにて、熟成中のワイン樽とブルネロ・クチネリ氏。氏の“人間主義的資本主義”もゆっくりと熟成を増し、今日のような世界的評価を得た。
2018年にソロメオ村に建設されたワイナリーにて、熟成中のワイン樽とブルネロ・クチネリ氏。氏の“人間主義的資本主義”もゆっくりと熟成を増し、今日のような世界的評価を得た。
ココ・シャネル、クリスチャン・ディオール、イヴ・サンローラン。名だたるファッション界のレジェンドたちが受賞した権威あるアワードがある。「世界で最も洗練されたデパート」とも称される米国の高級百貨店、ニーマン・マーカスが授与するニーマン・マーカス賞だ。
しばらく休止していたが2023年に復活する、その栄えある受賞者名簿に名を連ねることになったのがブルネロ・クチネリである。同氏が長年実践してきた、人間性重視の経営哲学“人間主義的資本主義”が評価されての快挙だが、経済的格差が世界問題となり、資本主義の限界が叫ばれる現在にあって、なぜその哲学は高く評価されるのだろうか。
「経済的格差の背景には、会社組織における管理者と作業者の待遇面の格差があると思います。給与の額だけでなく、時に明るく快適な高層階のオフィスで働く管理者に対し、作業者は低層で窓もない工場での労働を強いられるなど、環境面での差も大きい。特に手工業で成り立っているイタリアでは、この問題は切実なのですが、格差を縮めるためには“均衡”や“中庸”といった言葉を思い出すことが必要だと私は考えます。そしてバランスの取れた社会を再構築するには、ほどほどの利益とほどほどの成長、そして人間や地球に負荷を与えない経済活動が不可欠なのです」
世界のファッションシーンをけん引するデザイナーであり、上場企業の創業者兼会長であるブルネロ・クチネリは、現状をこのように分析する。利益を最大化することが営利企業の使命とされてきたこれまでの資本主義経済の信奉者にとって、クチネリの“ほどほど”という言葉は受け入れ難い。なぜならその言葉は、最優先すべきは利益ではないと示しているからだ。そこに同氏がたどり着いた、人間主義的資本主義の根幹がある。
ブルネロ クチネリ社が本社や工場を構えるソロメオ村は、自然豊かなペルージャ近郊の小高い丘の上に佇む。
その美しい街並みは、あたかも中世から時が止まったようだ。
持続不可能な
資本主義の限界
ブルネロ クチネリ社が本社や工場を構えるソロメオ村は、自然豊かなペルージャ近郊の小高い丘の上に佇む。
その美しい街並みは、あたかも中世から時が止まったようだ。
「私はあくまで資本主義者でありたいと思っています。そして弊社を含め、企業はきちんと利益を得ることが必要です。ただし、その利益は正当なもの、つまり人間や地球に負荷をかけず、正しくほどほどに得たものでなければなりません。人間性や地球環境を犠牲にして莫大(ばくだい)な利益を得る企業の製品を、人々は果たして欲しいと思うでしょうか? 私はそうは思わないし、現在の若者たちもきっと思わないでしょう。敏感な彼らはその害に気づき、ノーと言うようになった。そう、まさしくいま、新しい資本主義が生まれようとしているのです。そこで必要となるのが、人間性主体の人間的、気候変動に対処した環境的、地域文化に根ざした文化的、良好な人間関係に基づく精神的、そして社会的貢献を示す倫理的という、5つの持続可能性です。こうしたサステナビリティに基づいて得た正当な利益から税金を納めることで、イタリアという国、ひいては世界を、いまよりもよいかたちで子孫に残したいのです」
資本主義の名の下にひたすら利益のみを追求することで、人間性や地球環境はないがしろにされ、富は極端に偏在化してしまった。農家で生まれ育ち、工場で働く作業者だった父が、企業から尊厳を踏みにじられるような処遇を受ける姿を青年時代に目の当たりにしたクチネリ氏は、そんな資本主義の行く末をいち早く危惧。荒廃していた中世から続くイタリアの小村ソロメオに拠点を築き、村を復興させながら人間性を重視した経営を模索してきた。そして自然環境と調和しつつ、あくまで人間的営みとしての企業活動を持続させる、人間主義的資本主義という独自の経営哲学を熟成させたのだ。そう、クチネリの言う“ほどほど”とは、人間にとっても地球環境にとっても“正しい”ということ。あたかもルネサンスの時代さながらの美しく豊かなソロメオ村の姿は、まさに壊れかけた資本主義を再生=ルネサンスさせる手本なのである。
2011 年に整備されたブドウ畑のブドウを用い、2018年より稼働するワイナリーで醸造されたオリジナルワイン「カステッロ・ディ・ソロメオ」。
ファーストヴィンテージは“2018年”(日本発売未定)
豊かさの糧となる
森羅万象との調和
2011 年に整備されたブドウ畑のブドウを用い、2018年より稼働するワイナリーで醸造されたオリジナルワイン「カステッロ・ディ・ソロメオ」。
ファーストヴィンテージは“2018年”(日本発売未定)
「ソロメオには大地があり、森羅万象をかたちづくるすべてのものがある。その摂理にのっとって築いた劇場や図書館、モニュメントは、1000年後にもきっと存在するでしょう。この小さな中世の村では、オリーブオイルやワイン、麦が何世紀にもわたってつくり続けられています。私はそこに、カシミアの服を加えたのです。そうすることで、森羅万象との新たなバランスが生まれました。古代ギリシャの哲学者クセノパネスは、こう言っています。“すべては大地からやってくる”と。そして、現在の日本の天皇陛下が、即位される際に“これからは調和の時代”という意味を込めた元号がつけられました。パンデミックから脱しつつあるいま、世界は刷新されている。これからは森羅万象が調和した、新しい時代が始まるのです」
大地からの贈り物を正しく頂くーー。こんなにもシンプルな原理原則こそが、真の豊かさと未来のビジネス、そしてこれからの1000年を持続する新しい資本主義の礎となるに違いない。
Forbes JAPAN 2023年5月号より抜粋