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2023.03.28

新生IWC「インヂュニア」、今を生きるビジネスパーソンのために

IWCのインヂュニアは、いわゆる耐磁時計のハシリである。インヂュニア、つまりエンジニアと名付けられた本作は、1955年の発表以降、過酷な環境で時計を使う専門家たちに愛されてきた。しかし1976年、IWCは新しい層に訴求すべく、インヂュニアを一新した。デザインを手がけたのは、気鋭のデザイナーであるジェラルド・ジェンタだった。2023年、そのデザインが、ついに復活したのである。しかも、今使えるパッケージを伴って、である。


リバイバルを果たした、70年代の傑作デザイン

1976年に発表されたIWCのインヂュニアは、鬼才ジェラルド・ジェンタの手がけた代表作のひとつである。オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」やパテック フィリップ「ノーチラス」のデザインを完成させた彼は、IWCの要請を受けて、ステンレス製のケースとブレスレットを、このエンジニア向けの時計に与えた。

ロイヤル オークやノーチラスとの違いは、約8万A/mという高い耐磁性。しかし、元々厚い自動巻きに、耐磁性を高めるためのケースを加えることで、76年のインヂュニアは、かなり大きな時計となってしまった。

以降IWCは、ジェンタの優れたデザインを継承しつつも、薄いムーブメントでリファインを図った。これらはとりわけ日本市場で成功を収めたが、後にインヂュニアは、1955年当時の、ベーシックなデザインに戻ってしまった。IWCがブレスレット付きの時計をパイロットウォッチにシフトさせる中、ブレスレットを前提とするジェンタデザインのインヂュニアは立ち位置を失ってしまったのである。

しかし、IWCはジェンタデザインの復活を企図していた。ジェンタの傑作を、今の技術でリバイバルさせれば、確かに21世紀にふさわしいモデルとなるだろう。しかも、今のIWCは、スイスの時計業界でも希な、ブレスレットの製造技術を持っているのだ。

2023年にお披露目されたのが、ジェンタのデザインを受け継ぎつつも、より薄くなった「インヂュニア オートマティック 40」である。デザインを手がけたクリスチャン・クヌープはこう語る。

「あえて完全な復刻にはしませんでした。というのも、ジェラルド・ジェンタ本人が過去のデザインの焼き直しを嫌ったためですね。もっとも、格子状の文字盤やベゼルに刻まれた5つのドットはそのまま残しています」。

ブラック文字盤を合わせた標準的なモデル。文字盤には1976年モデルの特徴だった、グリッドパターンが再現された。

ブラック文字盤を合わせた標準的なモデル。文字盤には1976年モデルの特徴だった、グリッドパターンが再現された。

新しいインヂュニアは、21世紀のラグジュアリースポーツウォッチ

インヂュニア、つまりエンジニア向けと謳いつつも、新しいインヂュニアは、幅広い層に使えるモデルとなった。直径は40mmだが、全長は45.7mmしかない。そのため、腕の細い人や女性にも使えるだろう。CEOであるクリスチャン・グランジェ・ヘアは「このモデルは性別を問わず使えるモデル」と強調する。

今までのインヂュニアに同じく、新しいモデルも、時計の耐磁性能を高めるため、軟鉄製のインナーリングを内蔵している。これが歴代インヂュニアが厚い理由だったが、本作の厚みは10.8mmしかない。加えて、ケースの側面をわずかに湾曲させることで、腕馴染みも非常に良い。

磁気に強い時計は着け心地が悪い、というのが定説だが、これは新しいインヂュニアには当てはまらない。普通のブレスレットウォッチに見えるが、実は高い耐磁性能を持つインヂュニアは、誰にでもフィットする時計となったのである。

新しいインヂュニアは、搭載するムーブメントも優れている。採用したのは、自社製自動巻きのキャリバー32111だ。これは薄さと丈夫さ、そして長いパワーリザーブを両立したものである。ゼンマイが完全に巻き上がれば、新しいインヂュニアは約5日間動き続ける。

加えて、ツメで巻き上げる高効率な自動巻き機構により、デスクワークが主なビジネスパーソンであっても、巻き上げ不足で時計が止まる心配は少ない。サイズだけでなく、中身も幅広い層に訴求するものとなっているわけだ。
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Edit by Masayuki Hirota

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