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2023.03.31

人材獲得競争が激化するなか、あるべき人的資本経営の姿とは

コロナ禍で、リモートワークなど柔軟な働き方を模索、導入する企業が増えた。加えて、労働市場での人材獲得競争が激化している中、企業が多様な働き方を提供することは必須な時代となったといえるだろう。

同時に企業が幅広い人材のパフォーマンスを最大化し、企業価値につなげる「人的資本経営」への取り組みが日本をはじめ世界中で広がりつつあり、人的資本経営の情報開示ガイドラインが国内外さまざまな機関から公表されている。

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)では、同社の有志が立ち上げた、ソーシャル・インパクト・イニシアチブ(以下、SII)という部門横断型組織を中心にPwCネットワークのメンバーファームも含め、人的資本経営およびその情報開示について、クライアントにさまざまな支援を提供している。昨今の人的資本経営のトレンドや、それらに取り組むにあたってのスタンスについて、4人のコンサルタントに話を聞いた。



──人的資本経営のトレンドおよび情報開示に対する要請が世界的に強まっています。その現状の背景や経緯について解説をお願いします。

北崎茂◎上席執行役員 パートナー、組織人事コンサルティング部(People Transformation)日本代表 人事コンサルティング領域に関して約25年の経験を持ち、現在は組織人事コンサルティングの日本代表を務める。専門領域は組織設計、人事戦略策定、人事制度設計、人事プロセス/システム設計など多岐にわたり、200以上のプロジェクト実績を有するなど豊富な経験を有する。また、人的資本開示、ピープルアナリティクスの領域において、国内の第一人者として日系から外資系に至るまで、さまざまなプロジェクト・講演・寄稿の実績を有する。 一般社団法人People Analytics & HR Technology協会理事。HR総研客員研究員。Saratoga HR Analyst (Certified in Singapore)。

北崎茂(以下、北崎):人的資本の情報開示の重要性が強く喚起され始めた背景としては、ESG経営を重視するトレンドが加速したことが挙げられます。国連の責任投資原則(PRI)など、各ガイドラインに同意する機関投資家が増え、人的資本経営および情報開示もメジャートレンド化しています。

そもそもは、2014年に欧州委員会が非財務情報開示指令を発表したことをきっかけに、欧州を中心に組織および人材についての情報開示のトレンドが発生しました。欧州に展開していた日系グローバル企業は基準に照らした開示に対応してきましたが、当時は現在ほどの厳密さや分量は求められていませんでした。

日本において人的資本経営のトレンドが加速したのはここ2年ほど。「社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン」(ISO3041)の存在しかり、個人的には米証券取引委員会(SEC)が人的資本の開示を義務化したことが、一気に温度感を変えるきっかけとなったと捉えています。

有価証券報告書においても2023年度から女性管理職比率、男性有休取得率、男女賃金格差に関する開示が義務化されました。日本でも、世界の大きな流れをキャッチアップしようという動きが生まれていますが、開示に対する準備が整っていない企業が圧倒的に多い状況です。

──日本でも「人財」という言葉が多用されるなど、「人」を「資本」とする土壌は近年整ってきたように感じます。

北崎:グローバルでも、イノベーションを実現して企業が持続的に成長するためには、人材の多様性が不可欠だという認識が広がっています。しかし、日本にはその視点で企業カルチャーを診断できる指標が存在しませんでした。

一方で、日本国内の状況も人的資本経営の重要性を強く喚起しています。日本企業はもともと同質性が強く、企業の人材マネジメントにそれほど複雑性がありませんでした。しかし昨今では雇用・価値観の多様化が進んでおり、一律的なマネジメントはいずれ限界を迎えるでしょう。個性や多様な価値観に応じたマネジメントを実現できないと、高い生産性や雇用そのものを維持できなくなりつつあるのです。投資家サイドとしても、労働人口の構成や価値観の変化などを考慮した際、人材マネジメントの質が企業の持続的成長に大きく影響する要素だと判断し始めています。

──サステナビリティの観点から見た際、人的資本経営の重要性はどう捉えるべきでしょうか?

坪井千香子◎公共事業部 SII マネージャー ハウスメーカー、日系コンサルティング会社を経て現職。気候変動をはじめとする環境分野および社会分野において幅広くコンサルティング業務に携わる。 企業のサステナビリティ戦略策定・取組支援、脱炭素・環境取組支援、ESG評価対応支援、官公庁事業における気候変動関連調査、ESG関連動向調査、働き方改革支援、ワークライフバランス推進事業などに従事。 企業のサステナビリティ・脱炭素取組、働き方改革、女性活躍推進、両立支援などに深い知見を有する。

坪井千香子(以下、坪井):近年、サステナビリティに関する取り組みが、企業価値に直結するという認識が広がっています。一方、どのような取り組みがサステナビリティにつながるのかという問いへの回答や、マテリアリティ(重要課題)、サステナビリティに関する活動自体の方向性は企業によって異なってきます。

企業はそれぞれ、自社の答えを見つけ出していく必要がありますが、これは社外からESGの専門家を招聘すれば成し遂げられるというものでもありません。答えを導き出し、企業が生き残るための価値創造を実現できる人材を獲得し、育てることが必須となります。それがサステナビリティ観点から見た人的資本経営の重要性の1つです。

──投資家視点ではサステナビリティと人的資本情報をどう結びつけているのでしょうか?

坪井:企業がサステナビリティを実現するためには、人材の多様性がとても重要になります。そのため投資家はESGや人材に関する情報開示に注目しています。実際に人的資本の情報を開示する際には、企業の価値創造において重要となる人材の定義、評価方法、活躍のための環境づくり、多様性などの情報発信などができているかが評価のポイントになるでしょう。

多様性という観点を掘り下げるならば、男女の性差はもちろん、育児や介護中、もしくは障がいや病気を抱えている人材など、誰しもが働き続け、パフォーマンスを発揮できる環境であることが問われます。また育休取得率や女性管理職比率なども、多様な働き手が活躍して企業価値の創造に貢献できる組織なのかを判断する指標として注目されています。

──前例がないだけに、企業が人的資本の情報開示を検討しても、着手すべきポイントがわからないというケースも多いと思います

齋藤冠郎◎組織人事コンサルティング部(People Transformation) シニアマネージャー。SIer、総合人材サービスを経て現職。組織人事コンサルティングの領域において、人事制度設計、チェンジマネジメントの設計から導入まで、ピープルデータを活用したパフォーマンス分析、配置分析、ワークスタイル分析などのピープルアナリティクスを担当し、問題発見と課題化、人事施策化支援において貢献。「HR×デジタル・アナリティクス」を専門分野として活動する。People Analyticsおよび人的資本経営・開示への取り組みを支援している。

齋藤冠郎(以下、齋藤):PwCコンサルティングでは、人的資本経営・開示におけるPwC独自のHCROI(Human Capital Return on Investment)フレームワークを提示しており、具体的には5つの検討テーマを順番に掘り下げていきます。

まず、経営・事業戦略、財務/非財務価値、人材戦略、各施策との関連性を明確化します。PwCではこの関連性を「インパクトパス」(影響の経路とインパクトの可視化)と呼んでいます。日本企業においては経営・事業戦略と人材戦略、各施策の領域はそれぞれに独立している傾向がありますが、それらがつながってこそ、企業の将来的な財務価値/非財務価値を高め、リスクを低減するストーリーを語ることができるようになります。

インパクトパスが可視化されると重要な施策が見えてきます。そこでインパクトの最大化に向けた重要施策を定義することが2つ目の検討テーマとなります。

※プレ財務ドライバ:IIRCにおける6つの資本の考えに基づいてPwCが独自に設定した、サステナビリティ経営力(資金調達力、人材力、オペレーション力、創発・技術開発力、評判形成力、原材料調達力)

※プレ財務ドライバ:IIRCにおける6つの資本の考えに基づいてPwCが独自に設定した、サステナビリティ経営力(資金調達力、人材力、オペレーション力、創発・技術開発力、評判形成力、原材料調達力)


次にインパクト要素に対するKPI設定、データ収集モデルの構築を検討します。日本企業の人事領域では、KPIをベースに組織を運営するカルチャーがそれほど根付いていませんが、ここをしっかりクリアすることで人材戦略やその先の経営・事業戦略につながる計画の実現、目標達成の仕組みを構築することが可能になります。



また、データがもたらすメリットにより、合理的な意思決定が可能になります。そのためには人事情報、採用、エンゲージメントサーベイ、ラーニングマネジメント、人事関連コストなど、社内外のシステムに散在しがちな人的資本経営に資するデータを集約する基盤を構築する必要があります。またグローバルの各拠点からデータを収集しようとすると、各国のデータ保護法に対応しなければなりません。データガバナンス体制の構築も重要な課題となります。

次に、設定したKPIをステークホルダーに開示すれば責任を果たす義務が生じるので、実効性があり、継続的な改善を推進できるガバナンスモデルを構築していくことが4つ目のテーマとなります。そしていよいよ最後のテーマとなるのが、投資家や労働市場のニーズに対応して具体的な開示手法を構築していくこととなります。

──インパクトパスについてはどのような方法で具体的に策定していくのでしょうか?

土橋隼人◎組織人事コンサルティング部(People Transformation) ディレクター。総合系コンサルティングファーム2社を経て現職。約15年にわたり組織・人事領域のコンサルティングに従事。人材マネジメント戦略策定、人事制度改革、M&Aに伴う制度統合、ピープルアナリティクス、HRテクノロジー活用など幅広い領域を支援。従業員エクスペリエンスおよびサステナビリティ経営(組織人事領域)のサービス担当を務め(SIIチームにも所属)、人的資本領域経営・情報開示や従業員エンゲージメント向上の取り組みを支援している。

土橋隼人(以下、土橋):インパクトパスはPwCサステナビリティ合同会社とPwCコンサルティングとが共同で開発したSustainability Value Visualizer (SVV)という方法を活用します。これは知的資本や人的資本などに関連するサステナビリティ活動が将来財務に及ぼす影響の経路をパスとして整理し、そのインパクトを定量化するものです。人的資本領域についてはエンゲージメントと業績の関連性についての先行研究や、私たち人材マネジメントのプロフェッショナルの知見をもとに整理したプロトタイプをベースに、各社の経営戦略やマテリアリティなどを踏まえてカスタマイズしています。

人的資本情報開示においては経営・事業戦略との連動性を示すことが求められていますが、SVVは1つの解となると考えています。また、従業員エンゲージメントや多様性、組織文化などの企業全体を対象とした議論とあわせて、戦略実現のキーとなる人材とその充足状況を特定し、獲得や育成、動機づけのための施策が十分に実施されているか検証することも重要です。

──人的資本経営のトレンド加速は、企業/働き手の双方にどのような変化を起こすのでしょうか?

坪井:人材の活躍状況を正確に知ることができるようになることは望ましいことだと考えています。その中で、現場で開示情報と向き合っていると、企業の業種や業態などによって数字が意味することは一律ではない、と感じます。さまざまな情報が混在するなか、見る側にも開示情報の背景にあるメッセージを見抜いて、企業価値を評価していくリテラシーが求められるでしょう。

一方、企業にとって開示しないことはリスクになります。「開示しない=開示できない数字」と判断されることが一般的だからです。まず、課題や現状を把握・認識する姿勢からでも発信していくことが肝要となるでしょう。

土橋:人材が企業に忠誠を尽し、企業側が将来のキャリアを用意するという時代は、今や過去のものとなりつつあります。働く人の価値観が多様化し、人材獲得競争が激化している環境下においては、企業と働き手が対等な立場で合意形成していく世界があるべき姿。開示情報は投資家だけでなく、従業員や採用候補者に対して自社の人事ポリシーやキャリアに対する考えを込めたメッセージでもありますし、情報が増えるにつれ、人材側は自分に合う、もしくはより求める仕事を選べる時代になっていくのではないでしょうか。

──ソーシャル・インパクト・イニシアチブ(SII)の意義についてはどう捉えてらっしゃいますか?

土橋:脱炭素などサステナビリティ経営に関する幅広いトレンドの中で人的資本の話を位置づけられることができますし、プロフェッショナルとしての視座向上に役立っています。長年コンサルティングに従事するなか、ビジネスと社会正義はトレードオフの関係だと思っていました。しかし、SIIに参加するなかで両立できるものであるという手応えや、自分が取り組みたかった社会課題を解決できるという勇気を与えてもらっています。

北崎:企業や社会の課題は複雑さを増しており、環境変化のスピードも上がっています。人的資本経営もここ2年ほどの間で急激に変化を遂げています。企業の組織の役割や構造は、過去に生み出されたオペレーションやサービスモデルを効率的に回すことを目的に組み立てられていますが、そうなるとどうしても過去の概念に囚われがちになる。未来に生まれるであろう課題をいち早く捉え、その解決を推進していくためには、組織の垣根を越えて専門性を融合させるSIIのような場が必要です。

当然、まだ見落としている課題があるとは思います。PwCのメンバーファームのみならず、産官学と連携し、より広い意味でSIIを考えていくのが私たちの役割だと捉えています。



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Promoted by PwC Consulting LLC / text by Jungi Ha / photographs by Yoshinobu BIto / edit by Kaori Saeki

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