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2023.03.29

米当局、アップル「AirTag」をひそかに麻薬捜査に活用

Melina Mara/The Washington Post via Getty Images

米税関・国境警備局は昨年5月、上海から送られてきた2つの不審な小包を発見した。1つには、粉末を圧縮して錠剤にするプレス機が、もう1つには錠剤の染料が入っていた。同局は、これらが違法な麻薬製造業者向けに送られてきたものだと考え、麻薬取締局(DEA)に通報。だがDEAは、小包を差し押さえたり、受取人のもとを訪れたりはせず、代わりにプレス機の中にアップル製の「AirTag(エアタグ)」を隠し、その動きを追跡することにした。

この捜査手法は、フォーブスが入手した捜査令状によって明らかになった。連邦政府機関がアップルのエアタグを監視に用いるのは初めてとみられ、エアタグが荷物や貴重品を管理する便利なツールとしてだけでなく、遠隔監視用のスパイツールとしても使えることを示している。25セント硬貨サイズのエアタグは、2021年4月にリリースされて以来、盗まれた荷物や選挙看板を追跡するといった有益な使用法だけでなく、ストーカーによる女性の尾行といった悪意のある使用例も報告されている。

当局がエアタグを選んだ理由

DEAは、他のGPSトラッカーではなくエアタグを使用した理由を明らかにしていない。捜査令状には、次のように記載されている。「プレス機の正確な位置情報を取得することによって、麻薬や麻薬の販売で得た収益を保管する場所に加え、規制薬物を入手する場所や流通ルートに関する証拠を得ることができる」

最近アリゾナ州の司法長官事務所を退職した元刑事のブレイディ・ウィルキンスは、現在警察が使用しているGPSデバイスでは不具合が生じることがあるため、DEAはエアタグをテストした可能性があると推測している。「エアタグはより簡単に隠すことができ、容疑者に見つかる可能性も低い」という。ウィルキンスによると、犯罪者側が監視を避けるために使う技術は向上しており、エアタグよりも大きく、目立つ追跡装置だと発見されてしまうことが少なくない。また、エアタグは他のデバイスに比べて接続が安定する傾向にある。

しかし、エアタグは警察が期待するほどの効果を発揮しないかもしれない。アップルは、かなり前からエアタグの悪用を防ぐ対策を講じてきた。ストーカーがエアタグを使って女性を追跡する事件が多発した結果、2022年12月にはアップルに対する集団訴訟が起きた。これを受けて同社はiPhoneの追加機能として、所有者の動きを追跡している未知のBluetoothデバイスを検知した場合、警告を発するようにした。また、エアタグが長時間持ち主から離れると音が鳴るようになった。

45日間の追跡

法的支援団体「Legal Aid Society」の弁護士で、サイバー犯罪を専門とするジェローム・グレコは、こうした対策が講じられたエアタグは、DEAの捜査ツールとしては「異例の選択」だと指摘する。一方で「技術的に可能であれば、警察がそれを利用しようとするのは想定されることだ」とも述べた。

「エアタグやその競合製品は悪用されやすく、重大な結果をもたらす危険性が懸念される。DEAによる今回の捜査は、アップルが意図しない目的でエアタグが使用された新たな事例だ」。フォーブスは、DEAとアップルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

エアタグが犯罪摘発に役立ったかは不明だ。裁判所は、小包が配達される予定だったマサチューセッツ州内と米国の他州において、45日間エアタグを使って追跡する許可を与えた。司法省によると、プレス機の受取人は州当局により訴追された。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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