今回の選挙結果は、カシムジョマルト・トカエフ大統領による改革を巡る内政的な重要性だけでなく、地政学的かつ経済的な意味で、国際的にも大きな影響を与えるものとなる。だが、近隣の中国やロシア、さらには他の中央アジア諸国は内政の方針が逆方向を向いているため、カザフスタンの民主化の進展を歓迎していない。
カザフスタンは戦略的にも経済的にも重要な国だ。西欧と同程度の面積を持ち、国内には東西2つの時間帯がある。石油や天然ガス、ウランそしてグリーンエネルギーに欠かせないレアアースといった資源を豊富に有する。人口が少なく内陸に位置し、防衛に有利な地理的条件を持たないカザフスタンは、懐疑的な近隣諸国から注意深く監視される中、国内の若年層や高学歴層、都市部の有権者の自由化志向とのバランスを取りつつ、慎重な外交的綱渡りを強いられている。
同国は現在、欧米の制裁によって孤立を深めるロシアからは距離を置くと同時に、中国を刺激したり、あるいはロシアが作り出した空白を埋めるために中国に接近したりすることを避けようと模索している。
今回の選挙は、ソビエト連邦崩壊とともにカザフスタンが独立してから30年間、与党「ヌル・オタン(輝く祖国)」が圧倒的多数を占めていた政治体制を揺るがすものとなった。19日に行われた投票では、ヌル・オタンから昨年改称した中道系の与党「アマナト(祖先の遺言)」の得票率はわずか53.9%と、辛勝したのだ。
エネルギー市場や金融市場にとって最も重要なことは、今回の選挙で、カザフスタンの脱オリガルヒ(新興財閥)化や民営化、脱ロシア化など、自由主義的経済への改革を促す中道派の下院「マジリス」が誕生したことだ。
この中道派の支持層は、伝統的な価値観を重視し、農村を基盤とした社会民主主義を掲げる国民民主・愛国主義政党「アウィル」(10.9%)、都市部に基盤を置き市場経済化とデジタル化を志向する新党「レスプブリカ」(8.59%)、土地改革と農業近代化を目指す農村部の保守的な民主政党「アク・ジョル」(8.4%)に分かれていた。
投票率は54%と、当初の期待よりは低かったものの、今回の選挙がカザフスタンの政策や世界のエネルギー情勢に決定的な影響を与えることは確実だろう。この中道連合はトカエフ大統領を広く支持する一方、野党は右派・左派ともに、改革のペースが緩慢であるとして政府を批判している。