「親の権利法(Parents Bill of Rights Act)」と呼ばれるこの法案は、共和党のジュリア・レトロー下院議員(ルイジアナ州選出)が2021年に提出。下院での採決では民主党議員に加え、共和党の5議員も反対票を投じたが、賛成213、反対208で可決された。
同法案は、1965年制定の初等中等教育法を改正するもので、子供が小学校で使う性別を変更したい場合には学校が親の同意を得ることを義務付けているほか、親が学校の図書館の本を検査する権利を定めている。(共和党は、人種やLGBTQをめぐるインクルージョン(包摂性)促進を目的とした書籍を禁止する動きに賛同している)
これ以外にも、保護者による学校のカリキュラムや予算の審査、年2回の教師面談、子供の成績や学校での暴力行為に関する情報請求の権利なども定められているが、その大半は多くの学区ですでに導入されているとみられる。
共和党のケビン・マッカーシー下院議長は昨年11月の中間選挙で、同党の下院奪還に向けた公約として、この法案を推進すると約束していた。法案が上院を通過する見込みは薄いが、共和党議員にとっては、教育現場での新型コロナウイルス関連規制、LGBTQインクルージョン、人種差別問題への取り組みといったリベラル施策に対抗する姿勢をアピールする手段となっている。
保守派議員の中には、連邦政府は州の問題に介入すべきではないという共和党の綱領に反しているとして、法案に反対票を投じた人もいる。その一人である共和党のマット・ゲーツ議員(フロリダ州選出)は米紙ワシントン・ポストに対し、法案の内容は、連邦政府の教育省が「より少ない権限をもち、カリキュラムに関与しないようにすべき」という共和党の信念と相反するものだと語っている。
米国の学校における「文化戦争」は、新型コロナウイルス流行中に再燃し、学校閉鎖やマスク着用義務などのコロナ関連規制に反対する保護者による抗議が勃発。コロナ関連以外でも、左派が支持するジェンダー・人種のインクルージョン施策や、右派が支持する図書禁止をめぐって激しい論争が続いている。
この問題は中間選挙で一部の共和党候補にとって重要な争点となり、いずれも共和党に所属する州知事であるバージニア州のグレン・ヤンキンとフロリダ州のロン・デサンティスは、こうした動きの急先鋒となった。
デサンティスは、幼稚園から大学までの教育課程について、「批判的人種理論(クリティカル・レイス・セオリー)」を教えることや、多様性・公平性・インクルージョンの取り組みに強く反対。さらに、トランスジェンダーの生徒の女子競技参加を禁止する法案や、性的指向や性自認について教えることを禁じた通称「ゲイと言うな(Don’t Say Gay)」法案など、学校でのリベラル施策に対抗する法案に署名した。
フロリダ州議会は現在、LGBTQの権利や多様性を推進する取り組みを制限する複数の法案を検討しており、一連の法案はデサンティスにも支持されている。その中には、幼稚園と小中高の教職員が児童・生徒について言及する際、出生時に割り当てられた性別に応じた代名詞を使うことを義務付けるものも含まれている。
一方、バージニア州知事のヤンキンは、学校でのマスク義務化禁止を支持したほか、「本質的に対立を生む概念」を教える教師を通報するための情報提供窓口の利用を推奨したり(この窓口はその後閉鎖された)、批判的人種理論教育を制限する州知事命令を出したりした。
(forbes.com 原文)