国際展開に野心的なロシアの大手金融機関や資産運用会社は、欧米の制裁によって事業計画の縮小に追い込まれた。欧米人がモスクワやサンクトペテルブルクを拠点とする銀行を通して事業を行うことは、今や不可能に等しい。制裁は痛いほど効いているのだ。
モスクワに本拠を置くチニコフ銀行の元幹部で、2022年半ばに同社を離れメキシコに移住したネリ・トラルドは「制裁のせいで、世界中の銀行や企業がロシアに拠点を置く相手やその関係者との取引に極端なほど慎重になっており、常に多くの質問をしている」と証言する。「銀行はロシア国内外での決済を処理したり承認したりすることはなく、外国の取引先が実際の法律よりもはるかに厳しいコンプライアンス基準を自ら課していることがよくある」という。こうしたかたちで、制裁はロシアの金融機関を苦しめているのだ。
その一方で、ロシアの銀行は、米国のシリコンバレー銀行やスイスの金融大手クレディ・スイスが最近引き起こしたような金融危機とは無縁だ。ロシアの銀行では取り付け騒ぎがまったく起きていないのだ。通貨ルーブルも強含みで推移している。同国では金融最大手のズベルバンクやVTB銀行をはじめ、ほとんどの銀行が国によって保護されている。
ロシア中央銀行は過去10年間の大半を国内の金融システムの浄化に費やしてきた。エリビラ・ナビウリナ中銀総裁が主導したこの大規模な浄化政策によって、それまで乱立していた数百もの民間銀行が一掃された。これこそ、欧米の制裁がロシアの金融部門を破滅に追い込めなかった理由と言えるだろう。中銀はすでにシステムの弱点を取り除いていたのだ。こうしてロシアの銀行は、欧米の制裁や株式市場の上場廃止を、当初の想定以上にうまく切り抜けてきたのだ。
ロシア人は燃え盛るビルの前でカメラのレンズを構えながらせせら笑うかのように、欧米のシリコンバレー銀行やクレディ・スイスで、社員が報酬を得ながら焼け落ちていくのを皮肉交じりに見ていることだろう。