コロナ後のホテルが担い始めた新たな文化的役割

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2023年2月、ロンドンの名門ホテル「ザ・サヴォイ」にある「ビューフォートバー」は、これまでとは雰囲気の違う客たちを迎えていた。ヒットチャート1位を獲得したこともあるアフロレイヴのアーティスト、REMAが登場したのだ。レコードレーベル「デフ・ジャム」に所属する新人アーティストDebbieも、いっしょにステージに立った。

このイベントは、世界各地で高級ホテルを展開するFairmont group(フェアモント・グループ)の新しいグローバル・プログラム「センターステージ」のスタートを祝して開催されたものだ。

ザ・サヴォイだけではない。「ザ・スタンダード・ロンドン」は先ごろ、客室の一室を、音と光のインスタレーションを体験できる「リタイアリングルーム」に改装した。このインスタレーションは、照明デザイナーのベン・ドノヒューが手がけたもので、制作は「Right/Left Project(ライト/レフト・プロジェクト)」のスティーブン・ドビーとコリン・ナイチンゲールが担当した。

2月には、高級ホテル「ローズウッド・ロンドン」が、彫刻家ロレンツォ・クインによるインスタレーション作品を展示した。また、全室バトラー付きの名門ホテル「ザ・レインズボロウ」は3月いっぱい、ニューヨークの美術系出版社Rizzoli(リッゾーリ)と提携した一連のイベントを展開している。いずれも、美術館ほどフォーマルではなく、個人宅よりも入りやすいホテルという空間を生かしたイベントだ。

クリエイティブな人たちが集まる「サロン」という概念は、数世紀前からロンドンの暮らしの一部だった。18世紀のコーヒーハウスは、芸術的生活を教会から脱却させる上で重要な役割を果たした。そうしたコーヒーハウスはやがて、フォーマルなクラブ(会員制サロン)になった。現在も続いているのが、老舗となったロンドンの「White’s(ホワイツ)」や「Boodle’s(ブードルズ)」などだ。

音楽家や芸術家が貴族の応接間に取りこまれた19世紀と20世紀には、サロンの概念はさらにエリート主義的になったが、第二次世界大戦後にはこうしたサロンはすっかり見かけなくなった。

歴史的にいえば、ザ・サヴォイはこれまで、モネやホイッスラーをはじめとする画家の仮住まいになってきた(どちらの画家も、滞在中の部屋から見た風景を描いている)。また、作家が過ごす「ライターズ・イン・レジデンス」プログラムでも、高く評価されてきた。
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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