伝統工芸とNFTの組み合わせ
新時代の波は伝統工芸の世界にも押し寄せている。Sohmei Maruni TachibanaはNFTと伝統工芸を組み合わせる新進のクリエイターだ。芸大出身でイラストレーターとしての活動歴もありながら、建築士の資格をもち、出身地である長野県の伝統工芸品「猫つぐら」を稲で編み上げることもできる。よく言えば多才、悪く言えば器用貧乏にも見えるが、彼はもち駒を組み合わせることで最初のひとりを目指す。メタバース上に“設計”したギャラリーで、NFTアートとしての建築図面や猫つぐらが売れるようになったのは2022年初頭のことだ。図面をNFTの世界で初めて作品として販売した、そして伝統工芸のNFT化を進めたアーティストとして歴史に名を刻むという目標を掲げる。イラストや絵画、建築、3Dそれぞれの分野で名を刻むことは無理でも、組み合わせによって生まれる個性が食える仕事を生み出すかもしれない。
一連の取材を終えて思う。彼らの存在は私を含めたクリエイターにとっても希望を照らし出している、と。MoppySoundのように専門性を突き詰めて、Sohmeiのようにジャンルを横断しても、tokiのようにスケールを目指さなくてもいい。クリエイターは多様な選択肢を手に入れた。ベンチャービジネスのような経済的な成功より影響力は小さいかもしれない。だが、息長く「ほかの誰でもない自分」の創造性が経済圏を生み出す時代──それはもう現実になっている。
そーめい・まるに・たちばな◎普段はイラストレーターとして活動しながら、長野県や新潟県の伝統工芸品で、わらでつくる猫用の寝具「猫つぐら」を製作。猫つぐらをモチーフにしたNFTや建築士の資格を生かした建築図面のNFTの製作販売などメタバースでの創作活動もしている。1988年、長野県生まれ。猫つぐらは製作に100時間以上かかり、職人が激減中。
石戸 諭◎1984年生まれ。毎日新聞、BuzzFeed Japanを経て独立し、ノンフィクションライターとして活動している。『文藝春秋』に寄稿した「自粛警察の正体」で第1回PEPジャーナリズム大賞を受賞。著書に『東京ルポルタージュ』(毎日新聞出版)、『ニュースの未来』(光文社新書)など。