──おふたりは、自分や自分のいる業界の働き方がどう変化してきたと感じていますか。
VERBAL:自分は、根本として音楽でもファッションでもクリエイティブを軸に、自分が興味関心のあるものが原動力となって突き進んでいます。エモーショナルなプロダクトをつくりたいと思う分、そのインフラはちゃんと整ってないといけない。なので、いまは、自分が一線に立つのでなく、どうクリエイターがやりたいことに集中できるようにサポートができるのかに意識が向いている。
昔以上に自分を実験台にしていろんなものを試していますね。プレイヤーとして音楽を出していたときは誰かに頼らないといけなかった。でも、最近は、自分で環境を整えて、試してダメなら考え直すという仕事のやり方ができる。そういうやり方ができると、もっと答えに行きつく過程がわかりやすい、つくりやすくなったという感じがします。
音楽業界は稼ぎ方もわかりにくいし、ボヤッとしているといわれます。日本はプロダクションが初期投資してアーティストを育成するのが一般的。一方で、アメリカは趣味で音楽をやっている人がインディーでレコードを出したら売れて、メジャーレーベルから声がかかり、契約金が出るという逆パターン。日本はプロダクションが契約金をもらってその費用で新しいアーティストの初期投資にあてる。アーティスト側はお金について聞いてはいけない雰囲気があった。僕は聞いてたけど(笑)。
僕はもっと透明性を高めて、スキルのある人たちが自分のもっているものをもち寄って、もっとよりよい世界にしていくべきじゃないかと思っている。そういう理想を訴えながら、自分なりの答えを探してきました。
成田:経済学者も含め、研究者や科学者の働き方も多様化してきましたね。数十年前は大学や大企業の研究所など大組織に属す人が圧倒的に多かった。でもいまでは研究者がかかわるスタートアップがずいぶん増えましたし、情報を届けることが楽になり、専門性を直接的にユーザーや消費者に売るフリーランス的な研究者も出てきました。
自分の知り合いや同世代でも経済学の博士でスタートアップを立ち上げて成功している人は少なくありません。伝統とスケールがある大企業・大学的な組織ではない、スタートアップ・クリエイター的な生き方を経済学者も、ほかの研究者もしやすくなってきたと言えると思います。
ミュージシャンも最近はまずはSNSで名を上げて、それから大手と契約するなど、ボトムアップ型が増えてきているのかなと思いますが。
VERBAL: そこまでは簡単なんですが、例えば、ストリーミングだけやってももうけるのは難しい。でもストリーミングで有名になると看板代わりになるので、それをInstagramなどで加速させると営業が取りやすくなって、ライブや興行、グッズが売れ始めて、うまく回っていくシステムなんです。
アメリカは市場規模が大きいので一回の興行で数千万円入るようなラッパーもいますが、日本は数万円しかもらえないことも。日本でもアメリカと同じようなシステムになりつつありますが、そこからビジネス化できるスキームはあまりない。国内に残っていると手段が少ないというのが実情ですね。