同種の研究で過去最大となった最新の研究によれば、うつ症状に対する運動による「介入」は、薬物療法や精神療法といった従来の治療法と同等の効果があるらしいことがわかった。現行の臨床ガイドラインでは運動はうつの一次治療の選択肢に含まれていないため、研究チームは今回の研究成果を踏まえたガイドラインの更新を提言している。
研究チームは「British Journal of Sports Medicine」に発表した論文で、計2200人あまりが参加した41件の先行研究からデータを抽出し、メタ解析を行った。各先行研究の参加者には、運動の習慣を取り入れはじめた人と、対照群として運動をしないままの人が含まれている。
全体として、運動による効果は統計的にみて「中程度」から「大」と判断され、抗うつ剤やトークセラピー(話し合い療法)といった標準的な治療法の効果と同等であることが明らかになった。専門家の指導を受けた運動や、グループエクササイズ、中強度の有酸素運動など、運動のタイプによっては標準的な治療法よりも大きな効果が得られることや、軽い運動でも効果があることもわかった。
研究チームは効果量をこう説明している。運動する人100人のグループと運動しない人100人のグループ(対照群)を比べると、運動する人のグループの約半数はうつの症状が有意に減少するのに対して、運動しない人のグループではそれが20人にとどまる。
この研究が心強いのは、単にこの種の研究で最大規模であるだけでなく、研究デザインの欠陥や対照群の運動状況といった、研究結果の解釈を難しくする実験バイアスの一部にも対処しているからだ。
ただ、研究チームは、運動の効果が標準的な治療法に劣らないことを示すために特別にデザインされた研究(「非劣性研究」と呼ばれる)や、どのサブグループの人にどんな運動が最も効果的かを解明する研究など、いちだんの研究が必要だとも指摘している。運動が最適な治療法でない人もいる可能性があり、それについても研究が求められるとしている。
一方で、今回の成果について「うつへの治療介入に関する日常的な臨床判断だけでなく、ガイドラインの改訂にあたっても考慮すべきだ」とし、運動は今後、単なる補助的な療法ではなく、最初の治療法のひとつとして推奨されるよう変更することを提言。うつ病患者の約3分の2が治療を受けていないという現状や、既存の治療法は重いコスト負担や副作用をともなう場合がある点にも言及している。
これとは別に、オランダの医療機関アムステルダムUMCの研究者らが「Journal of Affective Disorders」に発表した論文では、抗うつ剤とランニングの効果を比較検証している。うつ病や不安神経症の患者を2グループに分け、一方には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一種であるエスシタロプラムかセルトラリンを服用してもらい、他方には週2回、各45分間ランニングをしてもらった。
16週間後に経過を観察したところ、寛解率は抗うつ薬グループで45%、ランニンググループで43%とほぼ同じだった。当然のことながら、ランニングした人たちは体重の減少や血圧の低下など身体面のメリットもあった。この研究チームも、運動をうつ病や不安障害の標準的な治療法に格上げすることを提案している。
ほかの治療法と同様に、運動もまたすべてのうつ患者に有効とは限らないだろう。それでも今後、さらに研究が進めば、運動が効きそうな人、ほかの治療法がよさそうな人などの判断もできるようになる。そうなればそれぞれの患者により適した治療が可能になり、治療の成功率も上がると期待される。
(forbes.com 原文)