起業家

2023.03.30 08:30

三井物産を辞めクッキー屋さんに 「ovgo Baker」はこう誕生した

OVGO創業者の溝渕由樹。小伝馬町の店舗で

OVGO創業者の溝渕由樹。小伝馬町の店舗で

プラントベース(植物由来)のアメリカンクッキーなどを製造・販売するベイクショップ「ovgo Baker」が、急成長している。

運営会社のOVGOは、2020年に当時27歳の溝渕由樹が、小学校の同級生2人とともに創業。2021年6月、東京・小伝馬町に初の路面店「ovgo Baker Edo St.」をオープンすると、軽井沢、原宿、京都と約2年で7店舗へと拡大した。春には本場ニューヨークへ進出する。

本連載「OVGOの軌跡」では、創業者の溝渕へのインタビューを中心に、OVGOの成長の軌跡を辿る。

2016年に新卒で三井物産に入社し、法務部で米州の契約書業務や交渉を担当していた溝渕。そこからなぜプラントベースのベイクショップを立ち上げるに至ったのだろうか。
SEE
ALSO

ビジネス > サステナビリティ

日本の飲食店初の「B Corp」 世界基準のクッキーブランドとは



NYで食べたクッキーに魅せられて

「幼い頃からとにかくお菓子が大好きだったんです」

笑顔でこう話す溝渕は、とにかく“おいしいお菓子”への熱量がすごい。

幼少期は、Hershey'sなどのアメリカの甘いお菓子に目がなかったという。そして、中学受験に合格した“ご褒美”として、家族に念願のアメリカ旅行へ連れて行ってもらった。その時ニューヨークで人気のクッキー店「ルヴァンベーカリー」で、分厚くて食べごたえ抜群のチョコチップクッキーを食べ、その味に魅せられた。



ここから“クッキー”に心がひかれるようになる。

とはいえ、学生時代は菓子業界に就職したいという気持ちはなかった。慶応義塾大学法学部に進学すると、ロンドンが留学きっかけで途上国支援に関心を持つようになり、帰国後にセーブ・ザ・チルドレンでインターンに参加する。その後、三井物産に入社した。

「もともと人権について興味があり、食糧問題や貧困・格差解消など社会貢献に関する仕事がしたいと思っていました。就活では、サステナブルな途上国支援のためには収益を上げるという方向性も必要だと感じ、まずはビジネスをつくるということを経験しようと商社を選択しました」

お菓子に関する仕事は「40歳ぐらいになったらこぢんまりとできたらいいなぐらいの気持ち」だったという。

社会の役に立っていると実感できることを

三井物産では、南米での食糧トレーディングや教育事業などに関する仕事を希望していたが、それとはかけ離れた法務部に配属される。投資契約書や売買契約書と睨み合う業務に、日々追われることになった。

「起業した今となっては法務部での経験がとても活きていますが、当時はすごく嫌だったんです(笑)。その反動か、忘れられないルヴァンベーカリーのチョコチップクッキーを再現するべく、夜な夜なクッキーづくりにはげむようになりました」

こうした日々を送るうちに、「規模は小さくても社会の役に立っていると実感できることがしたい。自分が好きな“食”に関することで」と、思うようになった。

そこでまずは下積みをするべく、3年間働いた三井物産を辞めDEAN & DELUCAに転職。2019年5月のことだった。
次ページ > ヒントを得たのは転職前の一人旅

文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事