恐怖心理が生む取り付け騒ぎ
今回の米国を発端とする金融破綻では、人間の恐怖心理がどれだけ恐ろしい結果を生むのかを目の当たりにしている。米国のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻の原因は、米国国債を保有しすぎたための破綻である。コロナ禍で米国では金融緩和策を取り、無限といえるほどドルを発行した。そのなか、SVBは米国国債の保有高を増やしていった。
そして昨年、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が「ビッグステップ」と言われる大幅な金利引き上げを実施した。金利が上がると、国債の価格が下がる。とはいえ、国債の価格が下がったとしても帳簿上の赤字であり、預金をしている人たちが預金を引き出そうとしなければ問題はなかった。
しかし、国債価格が下がり、それを不安に感じた顧客が取り付け騒ぎを起こしてしまった。預金を大量に引き出されると、銀行は保有している国債を売らざるを得ない。SVBは、泣く泣く国債をたたき売りする感じとなった。
また、シグネチャー銀行は2001年に設立され主に不動産や法曹界と取引していたが、2018年に仮想通貨産業に参入し、急速に業績を伸ばした。仮想通貨を利用する顧客のために、365日24時間体制の決済システムも取り入れた。その結果、デジタル資産と関連して、165億ドル(約2兆円)の預金を獲得した。
そしてコロナ禍以降、世界的な金融緩和策により仮想通貨関連企業にも資金が流入した。そのおかげで、シグネチャー銀行の2022年末の資産残高は、2019年と比べて2倍以上に拡大していた。だが、シルバーゲートやSVBの破綻を受けてシグネチャー銀行の信用不安も高まり、取り付け騒ぎにつながってしまった。いったん人々が銀行に不信感を抱くと誰も止められなくなる。
そのため前述のように米国政府も慌てて預金に関しては全額保証すると人々をなだめたのだ。しかし、今回の銀行の信用不安により、今度は国債価格が上がり、ビットコインをはじめ仮想通貨価格が軒並み上昇した。皮肉なことである。