だが、残念ながら、広範な共感が国の政策に反映されるには至っていない。アフリカ諸国は食料安全保障への懸念からロシア産の食料に依存しており、ウクライナ侵攻からは距離を置かざるを得ないのが現状だ。こうした食料依存に加え、ロシアは資源外交や軍事展開の方針を変えることで、アフリカにおける外交戦略を強化しつつある。
他方で、ロシアへの食料依存とは裏腹に、アフリカは西側諸国による対ロシア制裁からかなりの恩恵を受けている。ロシアが欧州市場から締め出されていることで、アフリカ諸国にとっては競争相手が減り、自国産の商品価値が高まることになるからだ。エネルギー資源を必要としている欧州を救うことができるのはアフリカであることは明らかで、こうした背景では、アフリカ側にとっては有利で安定した取引の契約を結ぶことができる。これはアフリカの経済発展に不可欠な要素でもある。
一方、ロシアはこうした状況をもたらす市場原理に対し、経済的に対抗することも、変化を起こすこともできないのは見てのとおりだ。アフリカの外国直接投資(FDI)でロシアが占める割合はわずか1%に過ぎず、ロシアのウクライナ侵攻は欧州とアフリカの経済的な連携を強めただけだ。
ロシアが損をする代わりにアフリカが得をした例は枚挙にいとまがない。アフリカ第6位の天然ガス埋蔵量を持つタンザニアは、英シェルやイタリア炭化水素公社(ENI)をはじめとする欧州のエネルギー企業と再交渉し、海洋液化天然ガス(LNG)プロジェクトを今年中に復活させることで最大300億ドル(約4兆円)の外資を呼び込むことに成功した。
セネガルは今年後半、天然ガスの大規模生産を開始し、今後整備される予定の液化施設やモロッコにつながるパイプラインを利用して欧州に供給することを見込んでいる。
ナイジェリアは昨年上半期時点ですでに欧州のLNG需要の14%を満たしていたが、今後さらなる供給拡大を計画している。
ナミビアは欧州のエネルギー不足に乗じてグリーン水素の輸出基地を建設し、欧州のエネルギー市場に参入。これらはいずれも、ロシアが自ら欧州のエネルギー市場から孤立する道を選ばなければ、実現しなかっただろう。