カリフォルニア州サンタクララで起きた破綻劇は、8200キロメートルほど離れた日銀本店から見れば対岸の火事なのではないかと思うかもしれない。だが2008年以降最悪となった米銀破綻は、日銀がまさに避けてきたことに端を発している。米連邦準備制度理事会(FRB)が進める「金融政策の正常化」である。
もちろん、SVBの破滅を導いた「犯人」はほかにもいろいろ挙げられるだろう。たとえばドナルド・トランプ前米大統領。トランプの署名で2018年に成立した規制緩和法によって、SVBはより厳しいストレステスト(健全性審査)を免れていた。またSVBの経営陣は、バランスシートをきちんと管理しなければどうなるかの反面教師として、ハーバード大学のMBA(経営学修士)コースで取り上げられるかもしれない。「皆さん、リスクヘッジはしておきましょう」と。
とはいえSVBを窮地に追い込んだ最大の原因は、FRBによる1990年代半ば以降で最も積極的な金融引き締めにある。ジェローム・パウエル議長率いるFRBが2022年から2023年初めにかけて利上げを進めてきた結果、SVBのお粗末なガバナンスは隠しきれなくなったのだ。
「潮が引いて初めて誰が裸で泳いでいたのかわかる」──。ウォーレン・バフェットの格言がこれほど見事にあてはまる事態もそうないだろう。グレッグ・ベッカー最高経営責任者(CEO)のチームは、顧客の資産を預かる受託者としてあまりに無防備だったと言われても仕方あるまい。
そして、こうした「潮が引く」シナリオこそ、過去20年、日銀が恐れてきたものである。植田和男次期総裁は旧来のしがらみにとらわれない「一匹オオカミ」的な金融政策に乗り出すと見込んでいる人もいるかもしれないが、ことはそう単純ではない。