新型コロナの起源をめぐっては、一部の米当局が研究所からの流出説が有力としているが、今回の研究結果は自然由来説の信ぴょう性を高めるものになった。ただ、もとになったデータは中国側から提供され、その後削除されている。
米誌アトランティックが伝えた研究成果の概要によると、この遺伝子データはパンデミック初期に武漢市の「華南海鮮卸売市場」の敷地内や周辺で採取された検体から抽出された。欧州や北米、オーストラリアの科学者らが解析したところ、この市場で違法に取引されていたタヌキが「2019年末時点で新型コロナウイルスを保有し、場合によっては排出していた」可能性が示されたという。
この市場で取引されていた動物と新型コロナウイルスを結びつける遺伝学的証拠が確認されたのは初めて。もっとも今回の研究結果は、同ウイルスがタヌキからヒトに種を超えて感染したことや、市場で売られていた動物のうち、同ウイルスを保有していたのがタヌキだけだったことを決定的に示すものではない。
研究のもとになった生データは先週、中国疾病予防管理センター(CCDC)に所属する研究者らによって国際的なデータベース「GISAID」にひっそりアップロードされた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、研究チームが中国の研究者側に連絡をとった後、データは取り下げられたという。
新型コロナの起源をめぐっては米エネルギー省が先月、「確度は低い」ものの研究所から流出したと判断していると報じられ、論争が再燃した。ただ、米政府機関で研究所からの流出説を支持しているのはエネルギー省と連邦捜査局(FBI)だけにとどまっている。国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と疾病対策センター(CDC)、国家情報会議(NIC)、ほか4情報機関は、動物から人へ自然に伝染したとする説を指示。中央情報局(CIA)など2機関は立場を決めかねている。
中国政府は研究所流出説に猛反発し、米国はパンデミックの起源を突き止める取り組みを政治化しているとまで非難している。一方で、中国政府は国内の野生生物市場での違法取引が起源とする説も否定しているため、今回の遺伝学的証拠も受け入れそうにない。中国政府は、新型コロナウイルスは国外で発生し、冷凍食品を通じて国内に侵入した可能性が高いと主張している。
中国の研究チームは昨年、武漢市の市場一帯で採取された同じ検体の生データを解析し、ウイルスの痕跡は市場で販売されていた動物自体ではなく、売買人や買い物客に由来すると結論づけている。
科学者らは、中国当局がパンデミックの起源に関する独立した調査への協力を拒んでいると批判している。
(forbes.com 原文)