そんな中、企業が首都圏に本社を置く必要性は薄れ、東京などから地方へ本社を移転するケースが増えている。帝国データバンクの調査では、2022年中に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は335社に上ることが分かった。転出数は1990年の調査開始以降、最多だった昨年(351社)から減少はしたものの、コロナ禍直前の2019年からは1.4倍に増加した。
一方で、地方から首都圏へ本社を移転した企業は258社で、2年ぶりに減少し、過去20年で最少に。結果、2022年は首都圏から地方へ本社を移転した企業数が、地方から首都圏へ本社を移転した企業数を77社上回る2年連続の「転出超過」となり、その数は過去20年で最多となった。首都圏の転出超過は、大阪圏や名古屋圏など他の主要都市圏と比べて、大幅に増加している。
帝国データバンクは、コロナ禍当初は急激な環境変化を理由に業績が急変し、ランニングコストの高い首都圏から地方へと移転する動きが急増したが、昨今はリスク管理の観点から首都圏外に拠点を設けるケースが増加し、地方で新規事業に挑戦したいといった前向きな移転需要も見られると解説。
首都圏からの移転先は大都市部、北関東3県など首都圏近郊エリアが多く、最多は「茨城県」の34社で、次いで「大阪府」(30社)、「愛知県」(24社)の順となった。移転先の地域は41道府県で、調査開始以降、最多を記録。首都圏から離れた遠隔地や、人口密度の低い中核都市・地方都市にも及んでいる。
首都圏から転出した企業の業種は、最多が「サービス業」(129社)で、「製造業」(68社)、「卸売業」(50社)、「小売業」(35社)が続いた。「サービス業」には、ソフトウェア開発やベンダー、ドローン開発などのソフトウェア産業が29社含まれ、サービス産業全体の2割超を占めた。
「製造業」は前年(51社)から大幅に増加し、2012年以来10年ぶりの60社超に。特に肉製品やビール醸造といった業種を含む食品産業が多く(12社)、食品産業の首都圏外への移転はコロナ後に増加。調査開始以降、1998年と並ぶ最多となった。「小売業」では、飲食店などを中心に転出がみられた。
売上高の規模別で見ると、首都圏からの転出企業で最も多かったのは「1億円未満」(149社)で全体の44.5%を占めたが、設立間もないスタートアップなどの割合が高かった前年(176社)から大幅に減少。代わりに「1-10億円未満」(143社)が42.7%で前年から大幅に増加し、首都圏外への移転はコロナ禍直後に多かった小規模企業から、中堅企業へと広がりをみせている。
帝国データバンクでは、首都圏に必ずしもオフィスを置く必要性がないという企業の認識は「一過性」の現象から半恒久的なものへと定着しつつあり、長く続いた首都圏の吸引力は低下。企業の「脱首都圏」の動きは、当面続くと分析している。
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