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2023.03.25

勝敗やゴールがない「ピクニック紀」の新しい働き方とは 遠山正道 x 尾和恵美加

Bulldozer代表取締役 尾和恵美加(左)とスマイルズ代表 遠山正道(右) 写真=若原瑞昌

尾和:まさに私がBulldozerでやろうとしているのも「アーティスト思考」です。遠山さんは、20年以上の間、面白がりながら様々な事業を手がけられ、同時に作家活動も再開しておられますよね。

遠山:楽しみながら続けていくためには、「何でやっているんだっけ」という問いがすごく大事だと思います。ビジネスもやりたくて始めているものだから、楽しいはずなんですよね。「これなら、絶対誰かが喜んでくれる筈」と思い、実験を繰り返して、立ち上げるわけですよね。それはクリエーションなんだから、みんな「作品」と呼べばいいと思います。

だけど、思っていたように進まなくなり、最初の思いと現実が違うとなったときに、数字や経済の原理に、自分も忘れているうちに押しつぶされるなり、すり替わっていってしまう。雇用も含めて色々な責任がある中で、利益の最大化が資本主義の一つのゴールだから、本来は手段でしかなかったものが目的化してしまうのだと思います。

尾和:おっしゃる通り、注意していないと陥りがちなことだと思います。とはいえ、起業家はリスクを背負っている分、「なんでやりたいんだっけ?」という問いをすごく大切にするから、立ち戻りやすいと思います。

勤めていると、原点に立ち戻らなくても毎日の仕事が進められるという利点がある一方で、そこが失われやすい気はしますね。私は「創業者精神」はアート思考の大切な要素だと思っていて、社員が創業者の思考回路を理解しながら、事業を自分ごと化してとらえられるようなワークショップも行っています。

一人ひとりが幸福感を得る「ピクニック紀」

遠山:昨年、島根大学で講演したときに、学生たちに「成功と安定、どちらを選ぶ?」と聞いてみました。7,8割が安定に手を挙げたので、最初は「ええ?」と思ったんですけど、90分間対話したら、安定指向というよりも、成功に対する嫌悪感なことがわかって。

何かを蹴落としたり、見て見ぬふりをしたりしながら、「何のために」という問いに「利益の最大化のため」と答えたりする。そういうものに対する嫌悪感なことがわかり、納得して帰ってきました。

数年後には40歳以下のミレニアル世代の人たちがお客さまの半分を占めるようになるといいます。ミレニアル世代は、「利益の最大化は何のためですか?」「その利益はどのように循環するんですか?」「そもそもこの会社って何のために存在しているんでしたっけ?」というようなことを素朴な疑問のように問うてくる。経営者がすっと答えられないと、気がついたらもういない、やめている。お客さんもすっと消えてしまう。本当にそういう時代になってくると思います。

ミレニアル世代の言う「安定」は、「もう地球上にも世の中にも物なんて十二分にあるじゃないですか。これ以上増やさなくても仲間とシェアすれば足ります。贅沢なんてしなくても、十分幸福感はあります」みたいなことなんですよね。

私は、それを「ピクニック」と言ってみて、これからの大きな時代を「ピクニック紀」と呼んでいます。ピクニックには勝敗がなく、目的もゴールもありません。「何のためにやっているか」という存在意義すらない。あるのは、「自分たちの心がより豊かになった」とか、「ときめいた」とか。世の中と共に自分たちが多幸感に溢れ、互いに協調しながら楽しむ。それが「ピクニック紀」のピクニックです。
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構成・文=ひらばやしふさこ 写真=若原瑞昌

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