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2023.03.27 16:00

多数の企業を立て直してきた再生請負人が 居酒屋チェーンの再建に取り組む理由

数々の経営難に苦しむ企業を救ってきた再生請負人・吉川元宏がいま取り組んでいるのは、東海地方を中心に居酒屋「新時代」などを展開する海帆。

なぜ吉川は外食産業に飛び込むことになったのか。改革の状況や今後の戦略について話を聞いた。



「新型コロナウイルスはおそらく、21世紀最大の出来事のひとつになるでしょう。マイナスでとらえるとネガティブな発想になりますが、どこかにビジネスチャンスがあるはずです」

数々の企業を立て直してきた男が選んだ次なる支援先は飲食業だった。吉川元宏は2022年3月、居酒屋「新時代」などを展開する海帆の社外取締役に就任すると、同年8月に代表取締役社長となった。

失敗から学んだ可能性を見極める“目” 

吉川は、20代前半にガソリンスタンドの経営に携わったのち、訪問販売を手がける会社に就職。社長に不満をもつ社員たちを率いて独立した。そこで成功を収めたことで、経営の行き詰まった企業から相談を受けるようになった。

温泉旅館からIT企業まで、これまでさまざまな業種の企業の再建を手がけてきた。温泉旅館を立て直した際は、建物が老朽化していたため、資金調達に奔走して建て替えを提言し、見事V字回復を実現した。そうした評判が評判を呼び、「企業再生なら吉川に」と相談をもちかける人が増え、やがて上場企業からも相談がくるようになった。

「これまでに多くの企業の再建に携わってきました。そのなかには、資金さえあれば再生できる企業がたくさんありました。資金調達の支援をするだけで、力のある企業であれば勝手に伸びていきます」

失敗を経験することで、どのような企業であれば再建可能かがわかるようになってきた。

「物事を見るときに深く入ってしまうと、一点しか見えませんが、大きく引いてみると会社全体の健康状態が見えてきます。最初はオーバービューで見て、そこから何がいけないのかをフォーカスしていくという見方が、失敗を経験することで訓練されました。事業に将来性があるかを見抜く力が必要です」

吉川は資金だけを出す投資家ではなく、プランナー型の起業家である。資金調達を行い、アイデアを出し、実践し改善を行うために自ら経営に乗り出す。そうして代表取締役に就任したのが海帆だった。債務超過で上場廃止の恐れがある同社を救済するには、資金援助だけでは不十分だと考え、火中の栗を拾う決断をしたのだ。

「海帆は上場企業です。それなりの売り上げもありますし、一時は一世を風靡したはずです。ただ、時代の変化に対応できていなかった。成功した企業の成長が止まったときには、時代にミスマッチしていることを早く認めるべきです」

外食産業はコロナ禍の影響を大きく受けた業界のひとつだが、吉川はいまこそ好機だと言う。それは、立地の確保がしやすくなっているからだ。

「高級店はどこにあってもお客様が来ますが、居酒屋はそうはいきません。どれだけいい場かが重要です。昨今はコロナ禍に耐えきれなかった企業が撤退しているので、いい立地が空いています。資金力のある企業は、そこに入っていけるのです」

吉川が代表に就任する前は、出店場所を決める基準が限定的だった。それゆえに、赤字店舗が増えていたのだ。

「出店戦略には確かな論拠がなければなりません。既存の出店戦略を見直し、まずは大きく方針転換を行いました」

海帆では現在、不採算店舗を閉店し、好立地への出店を積極的に進めている。

もうひとつ重要なのは、そこで働く従業員のサービスの質だ。

「社長に就任するにあたって、私は2週間、毎日同じ店に通ったのですが、従業員は私の顔を覚えない。スタッフに常連さんを意識する気がまったくないのです。入店して入り口で5分くらい立っていても、『少々お待ちください』のひと言もない。マニュアルはあるのですが形骸化して機能していませんでした」

店舗のオペレーションを向上させるために、吉川はモデル店舗の構築に着手した。「まず海帆という企業が目指す理想の店舗をつくろうと、直営店舗で取り組みを進めています。スタッフのサービスの質を上げるためには、明確なインセンティブが必要です。居酒屋の給料はけっして高くないので、収入が増えるというメリットを示す必要があると考えました」

スタッフたちの給与アップとモチベーション向上を両立させるために吉川が着目したのは、SNSの活用だ。スタッフたちに店内で撮影した動画をSNSに投稿させたのだ。スタッフ自ら出演することでファンを増やし、店の集客を増やすのが狙いだ。スタッフたちには出演料に加え、投稿数に応じたインセンティブを与え、やる気のあるスタッフを厚遇する仕組みを整えた。

「広告費に1億円をかけるよりも、スタッフたちの収入が増えたほうがいい。これをしっかりと運用できれば、飲食店のアルバイト店員でも月に50万円以上稼げるようになります。インフルエンサーになるようなスタッフが出てくることも期待できます。

再生動画回数に応じて店にもインセンティブを支払うので、マネージャーのモチベーションも上がります。まずはモデル店だけでの実施ですが、将来的には全店舗に広げたい。そして年に1回、社員総会を開き、優秀者を表彰したいと考えています。頑張ったらその分だけ評価されるという仕組みを、会社の文化にしていきたいのです」

吉川のこうしたアイデアは、ガソリンスタンド時代に原点がある。

「アルバイトたちはみんな、一様につまらなそうに働いていました。それは拘束という意識が強いからです。どうしたら前向きに楽しく働けるかを考え、スタッフたちが自分のクルマをスタンドに持ち込んで洗車やオイル交換を自由にできるようにしまし た。勤務外のときに来てもいい。その代わり制服を着て徹底的にやり、忙しくなったら手伝ってもらう。それを実施したら、スタンドにはいつもピカピカのクルマとたくさんのスタッフがいるようになり、サービスの質が上がりました。結果、顧客満足度が向上したのです」


新規事業を立ち上げシナジーを 

経営を立て直すためには飲食業だけでは不十分であり、多事業を展開するべきだと考える吉川は、新規事業の立ち上げにも着手している。

「またコロナのようなことが起きると経営が厳しくなるので、本業を支えるための事業を立ち上げました」

そのひとつは再生可能エネルギー事業だ。2022年10月にKAIHAN ENERGYJAPANを設立し、太陽光発電所設備の取得を始めた。今年1月にはKR ENERGYJAPANに商号を変更し、同事業を展開する企業との協業を開始したと発表。それにより、新たに50カ所の太陽光発電施設を建設する計画だ。

さらにはプランニング&プロデュース事業も立ち上げ、一般消費者向けの商材のプロモーションを支援する。いずれの事業も、本業とのシナジーを念頭に展開していく計画だ。

吉川は海帆にとって外様だが、短期的スパンでの経営は考えていない。海帆の価値を高めたいという野心があるからだ。

「自分で株を取得し、リスクを負って経営に携わっているわけですから、ある意味命懸けです。業績を黒字にして企業価値を高め、東証プライムに市場変更することを目指しています」

海帆
https://kaihan.jp

よしかわ・もとひろ◎海帆代表取締役社長。富士オイルなどを経て2009年、ペガソス・エレクトラを設立し代表取締役に就任。20年、ペガサスを設立し代表取締役に就任。これまでに多くの企業再建に携わってきた。五洋インテックス代表取締役社長、海帆社外取締役などを経て 22年 8月より現職。

Promoted by 海帆 / text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro