その週末、規制当局がSVBの破綻がより多くの銀行の暴走を引き起こさないように奔走するなか、マーキュリーの社員も奔走した。リスクとコンプライアンスのプロ、それにソフトウェアエンジニアや営業担当者が参加し、口座開設のスタッフは通常の2倍の60人に膨らんだ。
ベンチャーキャピタルの関係者によると、マーキュリーはSVB破綻の混乱の中で、デジタル銀行としては最大の勝者となったという。
マーキュリーの共同創業者でCEOの38歳のイマド・アクフンド(Immad Akhund)は、470人規模の同社がわずか6日間で20億ドル以上の預金と、数千人の新規顧客を追加したと報告している。彼が6年前に同社を立ち上げた理由は、テクノロジーベースの銀行プラットフォームがSVBよりも新興企業に良いサービスを提供できると考えたからだという。
マーキュリーは2019年にビジネス用当座預金口座を開設し、昨年はスタートアップ向けの法人クレジットカードの発行を開始した。同社は2021年7月のシリーズBラウンドで、アンドリーセン・ホロウィッツなどの投資家から1億5200万ドルを調達し、評価額を16億ドルに上昇させていた。
SVBの破綻を追い風にしたフィンテック企業は、マーキュリーのみではない。サンフランシスコを拠点に企業向けのクレジットカードや支払い管理ツールを提供するBrexは、この1週間で3000人の新規顧客を獲得し、数十億ドルの新規預金を獲得したと報じられている。同社はまた、SVBの元顧客らが給与支払いに対応できるよう融資を行った。
米国債を通じて企業の現金に利息をつけさせるニューヨークのスタートアップMeowも、この1週間に「毎日数億ドルの需要がある」と述べている。ソフトウェア企業が将来の収益源を売却して前払いの現金と交換できるようにするArcのCEOのDon Muirは「木曜日以降に500社のスタートアップが合計1億5000万ドル以上の給与支払い向け融資を申請した」と述べている。ニューヨークを拠点とするデジタルバンクのRhoも新規顧客を急増させた。
しかし、新たな預金や新規顧客を引き寄せたフィンテック企業が、その顧客を維持できるかどうかはまだわからない。ベインキャピタル・ベンチャーズのMerritt Hummerは、「彼らが勝利を宣言するのはまだ早すぎる。多くの企業は、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカのような大手銀行に資金を投入することを選ぶだろう」と語る。