幸福度ランキングNo.1の国さながらの充実度を感じる一方で、「日本の良さがどんどん際立ってきちゃうんですよね」と本音も吐露する。
北欧なんてうらやましい! と言われそうなその陰で、移住者が感じるリアルを聞いてみた。
1年先まで予約が埋まるも生活はすれ違い
フィンランドといえばマリメッコやムーミンなどから連想されるように、美しい北欧の雪国という印象が強いが、税率は24%とお金のかかる国としても知られている。それでも、毎年行われる「世界幸福度調査」では4年連続1位を獲得。社会的支援や健康寿命、人生の選択の自由度といった項目で高い評価を得ている。梅沢さんの目にも、そんなフィンランドが魅力的に映った。
「実は確固たる理由があったわけじゃないんです。でも、自分の働き方を変えたかったので、ワーク・ライフ・バランスを大事にしているフィンランドならやれるんじゃないかなという思いはありました」。
美容師として東京・神宮前に自身のサロンを構えていた梅沢さん。定休日の火曜日以外は、朝から晩までハサミを取る生活をしていた。
「原宿という激戦区で1年先まで予約が埋まるような店にできたら、それは美容師にとってステータスだし、僕もそれを目指しました。きっとその先にまた違う景色が見えるだろうと思って。でも、実際は忙しくて苦しいだけでした。妻とはずっとすれ違いで、シェアハウス状態になってましたね(笑)」。
梅沢さんは当時40代後半。「この働き方じゃ体も持たない」と悩み始めた頃、“海外”という新しい扉が開き始めたという。
「美容室のお客さんの中に、海外に頻繁に行く人がいたんです。海外旅行は面倒なものっていうイメージが僕にはあったんですけど、その人は海外に『散歩に行く』って言ったんですよ。なんかすごく豊かに思えて。僕もやってみようと」。
北欧で“美容院迷子”になっていたアジア人
ロンドンやパリ、ニューヨークのような大都市ではなく、あえてフィンランドを選んだのは直感だった。
「どうせ行くなら、フィンランドのヘアサロンを見てみたいなと思ったんです。それで、現地のコーディネーターに案内してもらったら、アジア人は髪の悩みを持ってることがわかった。癖のある髪質なので、現地のサロンでは思うように切ってもらえないんですよ。それで、僕の技術や感性が活かせるかもしれないと感じたんです」。
それから2年間、散歩に行くようにフィンランドを訪れるようになったが、その度に梅沢さんのスキルを求める人の予約でいっぱいになったという。
「多くは日本人のお客さんですが、すごく喜んでもらえましたね。それが自分のエネルギーにもなりました。神宮前とヘルシンキで働く自分を想像してみて、こっちでやろうと移住を決めたんです」。