コロナ禍に地政学的リスク、景気後退。時代に翻弄されずに、企業を成長させるべく、 経営者にできることとは何か。世界を代表する屈指のプロ経営者が考えを明かした。
2020年3月、米テクノロジー企業「ServiceNow(サービスナウ)」の会議室には、ただならぬ緊張感が漂っていた。入室するなり、同社のビル・マクダーモット会長兼CEO(61)は、経営陣の顔から困惑と迷いを感じ取った。
新型コロナウイルスのパンデミックという未曾有(みぞう)の事態を前に、世界はどうなるのか。サービスナウが果たすべき役割とは?
マクダーモットの答えは明快だった。
「サービスナウが目指す理想的な会社になるには、いま、世界が直面している問題を“自分ごと”にしなくてはいけない」
そのためには、新型コロナウイルスと戦う世界各国の企業の側面支援をする必要がある──。そして、いまこそサービスナウの“強み”を生かせるとマクダーモットは確信していた。
米カリフォルニア州サンタクララに本社を置く、2004年創業のサービスナウは、ワークフローのプロセスを自動化するプラットフォームを提供している。同社の2021年度におけるサブスクリプションの売り上げは前年比28%増の55億7300万ドルに達し、顧客数は7400社以上に上る。
そのうち、80%近くが米大企業を代表するフォーチュン500企業である。フレッド・ラディが創業して以来、フランク・スルートマン(現スノーフレイクCEO)、ジョン・ドナホー(現ナイキCEO)と、辣腕(らつわん)経営者たちが率いてきたが、独IT企業SAPをCEOとして時価総額390億ドルから1560億ドルの企業に育て上げたマクダーモットが2019年11月にその後を引き継いだ。
同社の製品は、元々はプログラマーの煩雑(はんざつ)な業務プロセスを簡素化・自動化することを目的としたサービスとして生まれたが、本質的にはあらゆるビジネスの現場で使える。例えば、新しい会社に転職したとしよう。セールス職であれば、業務内容はもちろん、新しい職場のルールや、経理や人事などに経費や有給休暇を申請する方法を1日も早く学ばなくてはいけない。
だが、いちいち各部署に問い合わせるのは非効率的で現実的でもない。サービスナウは、そうした部署やプロジェクト間をまたぐ作業を一元化するプラットフォームを提供している。
部署やプロジェクトごとに細分化された現代のビジネスでは、個々人のタスクは明確になる一方で、タコツボ化しがちだ。たとえ同じオフィス内の、それもすぐ隣の部署であっても、業務や承認フローが異なるケースが多々ある。社内でコミュニケーションを取っていても、完璧な意思疎通は容易ではない。俗にいう「サイロ効果」だ。これがリモートワークともなればどうなるか、想像に難くない。