CEOs

2023.03.20 11:30

理想的な21世紀企業になるために 世界屈指のプロ経営者に聞く

マクダーモットはすぐに動いた。コロナ禍にあって、オフィスや自宅とでハイブリッドに働く人々が安心して仕事に取り組める環境づくりを支援するために。サービスナウは1週間で緊急事態対応アプリを開発したのだ。クラウド型SaaS製品(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を開発するサービスナウにとっては、自社のサービスの特性を生かせる絶好の機会だった。

世界の課題を自分ごとにできる文化

いま、世界は混迷と変動の時代を迎えている。米調査会社IDCが世界各国の経営者389人を対象に実施した「2022年版世界CEO調査」によると、CEOの88%がテクノロジーへの投資を維持するか、増やすことを考えていると回答している。また、多くのCEOがデジタルファーストを推進するにあたって、「すべてのCEOが“テックCEO”になる必要がある」と考えている。

その点はマクダーモットも同じだ。すっかりバズワード化した感がある「デジタル化(DX)」だが、彼はこの市場が、今後3年で11兆ドル規模へと成長することが見込まれている点を指摘する。そして、この変動を自社にとっての「強み」とみなし、追い風のようにとらえている。

独IT企業SAPを米国で急成長させたビル・マクダーモット(左)。ジム・ハガマン=スナーベ(右)と共同CEOを務めたのち、単独CEOに。順風満帆だったハガマン=スナーベとの共同経営時代に代表されるように、マクダーモットは「共感」をもって辛抱強く経営することで知られている。

独IT企業SAPを米国で急成長させたビル・マクダーモット(左)。ジム・ハガマン=スナーベ(右)と共同CEOを務めたのち、単独CEOに。順風満帆だったハガマン=スナーベとの共同経営時代に代表されるように、マクダーモットは「共感」をもって辛抱強く経営することで知られている。


それは、現在は協業しているマイクロソフトやセールスフォース・ドットコムなどのテック大手とも将来的には競争することをも意味しているのだが、彼は、「かつてないほど巨大なマーケットが生まれようとしている。些細(ささい)なシェアの取り合いをするのは無意味」と、まったく意に介さない。

「世界中の何百万もの潜在顧客がいる市場を創出する絶好の機会なのです。だから、壮大なスケールの夢と希望をもって臨みますよ。当たり障りなく、ソツなく動くだけではどこへも行けません」

では、そのカギとなるのは何か? マクダーモットは、「従業員の経験値」と「企業文化」の2つを挙げる。そして、コロナ禍がサービスナウにとって追い風になったとすれば、それは製品が時代の要請に合うものであること以上に、「コロナ禍を自社の問題を解決する機会に利用するのではなく、世界が直面している問題と考えることにより、企業文化としてより一体感をもって成長できた」点にあると語る。

「従業員たちが『世界が抱えている問題を解決したい』と自発的に考えられる企業文化を育てることこそが、21世紀を代表する法人向けソフトウェア企業になるための“エリクサー(秘薬)”だと、私は信じていますから」


ServiceNow◎米カリフォルニア州に本社を置く、2004年創業の米テクノロジー企業。共同創業者はフレッド・ラディなど。ワークフローの効率化・自動化サービスを提供しており、7400社以上の顧客がITから人事、カスタマーサポートに至るまで幅広く利用している。12年、NYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場を果たしている。

ビル・マクダーモット◎米IT企業サービスナウ会長兼CEO。新卒後、米ゼロックスに入社。ガートナーやシーベル・システムズを経て、SAPのCEOに就任。2019年11月より現職。15年に事故で片目の視力を失う不幸を経験しているが、「より強くなった」と明かす。

文=井関庸介/フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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