ビジネスも人生も、漫画が教えてくれた──。
経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第10回目は、報道番組のコメンテーターとしてもお馴染みのクリエイティブディレクター、辻愛沙子が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
微力は無力ではない。常識を疑う生き様に鼓舞されて
栗俣力也(以下、栗俣):辻さんが『チ。―地球の運動について―』を選んだ理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。辻 愛沙子(以下、辻):私は幼稚園から一貫校に通っていたのですが、中学2年生の途中で自主退学しました。いじめもなく、平和で楽しい学校生活だったのですが、似通った家庭環境や価値観をもつ生徒が集まる女子校で過ごすうちに「きっとまだ見ぬ世界があるはずだ」と焦燥感に駆られたのです。
言語も人種も宗教もセクシュアリティも、世界はもっと多様で多彩な人たちで溢れているはず。殻にこもっている場合じゃない!と単身、海外に飛び出しました。
中高生時代を海外で過ごしたあと日本の大学に入ってみると、またしても焦燥感に駆られました。そこで、当時まだ発展途上だった20人弱のベンチャー企業にインターン生として入社し、在学中にもかかわらず正社員として働き始めました。就活をして新卒で大企業に就職するのが当たり前と思っている同級生からは「マジ⁉️ 大丈夫⁉️」と(笑)。
周りの人たちが信じる常識や真理が、すべて正しいとは限りません。誰かが決めた“常識”とは異なる道だったとしても、自分の中に芽生えた違和感や好奇心から目を背けず突き進むことこそ人生だと思うんです。
2020年に連載が始まった『チ。』を読み始めたら、10代のころからいままでの自分の生き方が作品に投影されているような気がして、たちまち夢中になりました。
主人公のひとりラファウは、天動説が常識とされる世界で、命がけで地動説を信じる異端者に会います。「そんな人生...怖くはないのですか?」と問うと、異端者は「怖くない人生などその本質を欠く」と、すごい言葉を口にする。