それによると、このきわめて重要な時期に行われたロックダウンの効果で感染拡大は推定56%抑制され、感染者数は同年3月から4月にかけて最大で80%減ったことがわかった。半面、その代償として「経済や消費者に対する計測可能なコスト」が生じたという。
学術誌「Journal of Public Policy and Marketing」に発表された論文によると、具体的には、各州のロックダウンによって米国の国内総生産(GDP)は5.4%縮み、雇用は2%減り、顧客満足度は2%下がり、個人消費は7.5%落ち込んでいた。
これらに基づくと、感染1回を防ぐのに米国のGDPは平均で約2万8000ドル(約380万円)失われた計算になる。新型コロナの死亡率は2020年4月時点で1%強だったから、品のない計算をあえてするなら、ロックダウンによってひとりの命を救うのにかかる経済コストは推定で30万ドル(約4000万円)ほどということになる。
論文の共著者であるカリフォルニア大学リバーサイド校のアシシュ・スード准教授は「新型コロナ政策の真の費用便益を理解することは、政策当局が過去の決定の効果を検証し、将来の大規模な健康危機に対処する準備をするのに役立つ」と述べている。
この研究では、ロックダウンを実施すると新型コロナのほかの予防対策も強化されるらしいという興味深い発見もあった。具体的に言うと、ロックダウンを敷くとマスク着用率が約18%上がったという。
別の共著者であるカンザス大学のサジーブ・ナイアーは「多くの専門家は、ロックダウンによってマスクの必要性は下がると考えていた。ところが実際はマスクの着用は増えていた。おそらく、ロックダウンがパンデミック(大流行)の切迫さを伝えるシグナルの役目を果たしたからだろう」と説明している。
今回の研究はロックダウンの実施時期が異なる州の結果を比較しているため、批判の余地があるのは確かだ。ただ、州ごとの文化や気候、経済要因の違いといった変数はそもそも調整するのが容易ではない場合もある。
経済学者のライアン・ボーンも2021年の記事でロックダウンの費用便益分析の難しさについて論じている。ボーンは、ロックダウンについては「もし~だったらこうなっていた」という反実仮想(counterfactual)をすることが難しいと指摘し、「ロックダウンの代替は平常(normality)ではなく、相当数の自発的なソーシャル・ディスタンシングであり、これがすでに多くの命を救った」とも記していた。
ロックダウンの正確な経済コストをはじき出すのは不可能なのだろう。一方で、著者らによると今回のデータからはひとつはっきり言えることもある。それは、各州の知事によるロックダウンをめぐる判断で決め手になったのは、感染拡大それ自体ではなく、党派性という政治的な事情だったということだ。
(forbes.com 原文)