フジクラが過去最大の当期損失385億円を計上したのは2020年3月期だった。そこから2年。22年3月期に当期純利益391億円へと黒字転換させた立役者が、22年4月からCEOを務める岡田直樹だ。
岡田は光ケーブル一筋のエンジニアだった。入社以来、R&D部門がある佐倉事業所にいたが、赤字決算直前の20年1月、突然本社に呼ばれた。
「佐倉にいると会社全体がどうなっているのかわからなかった。本社にきて、これは大変だなと」
4月には常務執行役・コーポレート企画室長に抜てき。立て直しの具体的なプランを策定していく。
コーポレート経験がない岡田に白羽の矢が立ったのは、過去に事業立て直しの実績があったからだろう。基幹事業のひとつである光ケーブル事業が赤字に陥ったのは14年だ。日本は10年に光ケーブル整備がほぼ終わり、以降は年30%前後で市場が縮小。価格も下落し、一転して赤字になった。状況を打開するため、同社は次世代光ケーブル事業推進室を設立。室長に岡田が就任して、事業をふたたび成長軌道に乗せたのだ。
このとき展開した戦略商品SWR(スパイダーウェブリボン)は、岡田自身が06年に考案した。それだけに思い入れは強く、取材時には実物を手に説明してくれた。
「従来のリボン(ファイバーを横に並べて接着したもの)は一方向にしか曲がらず、まとめてケーブルにすると構造上、密度が低くなる。ケーブルを高密度化するにはどうすればいいか。事務所の机の上でファイバーをよりあわせたり瞬間接着剤でくっつけたりして試していたときに浮かんだのが、“みかん”ネット。ファイバーを横に並べるのではなく、点でつないでネット状にすれば、いかようにも変形が可能で、ケーブルの中にもグシャッと詰め込めます」
高密度化は大容量化につながり、細くして既設管路の空きスペースを活用して低コストで敷設することも可能。インフラ整備が進んだ先進国市場で期待できるケーブルだ。ただ、グシャッと詰め込む変則的な構造ゆえに量産化が難しく、考案後すぐに販売できなかった。
14年設立の次世代光ケーブル事業推進室では量産化がテーマになった。しかし当時は市場環境が悪く、社内でも「光ケーブル事業からの撤退もやむなし」という声があった。