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2023.03.17 16:00

社員が「全員参加型」でイノベーションを興し、「社会の大丈夫」をつくっていく

沖電気が開発した、AIエッジ コンピューターを活用した「AIエッジロボット」の運用センター(コックピット)。自律動作するロボットと運用センターに配備したコックピットからの遠隔操作を組み合わせることにより、一人で複数拠点を複数のロボットを用いて、現場業務の遂行を効率的に支援することが可能。

連載第2回は、沖電気工業(以下、OKI)専務執行役員 デジタル責任者(CDO)の坪井正志氏とレノボ・ジャパン 執行役員副社長の安田稔が対談した。創業140年を超え、堅牢な既存事業と組織風土がある同社が力強くDXを推進する姿は、多くの日本企業の手本となるはずだ。デジタルによって提供価値を増やすリーダーである坪井氏の思いと原点を探った。


パソコンが社会を変えるかも、という期待を胸に

安田稔(以下、安田):坪井さんは、1983年に入社されてから、一貫して技術畑を歩んで来られたと伺っています。どういう思いをもってご入社されたのでしょうか。

坪井正志(以下、坪井):大学では管理工学を専攻していて、そこでPC-8000シリーズ(日本電気(NEC)が発売したパーソナルコンピュータシリーズ)に触れたんです。その時、「これが社会を変えるかもしれない」という期待が大きく膨らみました。

当時のパソコンは性能が高くなく、ホビー用の位置づけでしたが、OKIはそれをビジネスに使う方針を掲げていたのです。パソコンでソフトウェアを扱うことによる「OA(オフィス・オートメーション)」を本業でやっている当社に興味を抱き、入社を決めました。

安田:懐かしいですね。私も学生時代にPC-8000シリーズを使っていました。それからさまざまなご活躍を経て、CDOにご就任されたのが2022年4月ですよね。どのようなビジョンを描かれましたか?

OKI専務執行役員 デジタル責任者(CDO) 坪井正志氏

OKI専務執行役員 デジタル責任者(CDO) 坪井正志氏


坪井:今やあらゆる企業や行政がDXに取り組んでいる中で、OKIならではのポジションをとるべく、「オリジナリティに溢れたDXをどう描くか?」に腐心しましたね。

また、経営全体を見渡す執行役員としてDX戦略を描くにあたり、「DXと経営ビジョンを紐づけて捉えたい」とも考えました。そもそも当社は、社会インフラを構築されている企業へのIT支援によって成長してきた企業です。その生業と関連づけて、「社会の大丈夫をつくっていく。」を実現するDX新戦略を2022年に発表しました。

そのうえで、個別のDX戦略を「DX4象限」で示しました。これは「自社の生産性強化・対外的な競争力強化」×「ビジネスモデル変革・ビジネスプロセス変革」の2軸をとったマトリクスで表現したものです。

この4象限をつなげるキーワードとして「外部化(エクスターナライゼーション)」があります。これは、自社の技術やプロセスをお客様へ製品やサービスとして提供するもので、いわゆる外部委託(アウトソーシング)とは異なります。

「外部化」は、日本企業にとって重要な考え方ではないかと思っているのです。欧米で生まれたサービスは、言語の要素も影響しているのか、最初からグローバル展開を見据えたアーキテクチャになっています。一方、日本企業は、特定のお客様向けに開発した製品やサービスが軌道に乗ってから、水平展開する傾向があります。そう考えると、最初の成功事例を生み出すべく社内で技術やプロセスをつくり、その後、類似した課題を抱えるお客様へ提供することは、我々にとって馴染みやすいDXの在り方だと思うのです。「個」で成功したものを、外部に広めていくという姿勢です。社内で実現に苦労したポイントも、お客様にも当てはまる部分があるでしょうから、それも含めて価値を提供できると考えています。

そして新たなソリューションとしては、お客様のビジネスモデルを変革する「AIエッジ戦略」があります。生産現場や社会インフラなど、現場(エッジ領域)のDXをご支援することを通して、労働力不足などの社会課題の解決につなげています。

社会課題を解決する、「全員参加型」のイノベーティブな組織づくり

レノボ・ジャパン合同会社 執行役員副社長 安田稔

レノボ・ジャパン合同会社 執行役員副社長 安田稔


安田:御社のDX新戦略を拝見すると、社会課題に向き合う姿勢を色濃く感じます。一つひとつのソリューションがどの社会課題の解決につながるのかが示され、SDGsの項目との関連性も明確です。さらに、一部の人材だけがDXを推進するのではなく、「全員参加型でイノベーションを興す」とも明言されていますね。

坪井:いま振り返ると、当社は早い時期からSDGsを意識してきたと思います。社会インフラに携わってきた生業から考えると、自然なことなのかもしれません。

そして、各製品・サービスがどういった社会課題を解決するのかをSDGsの項目と紐づけて示し、ショールームでは模型も多く展示しているのは、お客様にご理解いただきやすくするためです。

OKI ショールーム「OKI Style Square TORANOMON」

OKI ショールーム「OKI Style Square TORANOMON」


また、我々はレガシーな会社だという自覚があり、だからこそ意識的にイノベーティブにならなければいけないと考えました。「全員参加型」を謳う前は、少人数のイノベーション組織をつくっていた時代もありました。ただ、その規模では、売上も、社会に与えるインパクトも限定的になってしまいます。せっかくDXに工数を割くのであれば、全社の組織風土改革として向き合うべきだと考えたのです。

こうして2018年頃から、イノベーション研修やアイデアコンテスト、経営トップとの対話など、ありとあらゆる組織風土改革の施策を行い続けています。最近では、外部の皆さんからも「面白いことをやっていますね」とポジティブな感想をいただくようになってきました。

全社員で社会課題を解決し、キーメッセージである「社会の大丈夫」を広げていくことは、私にとって最大のモチベーションになっています。

25年前に率いた社内ベンチャーは、聞こえはいいが失敗の連続だった

安田:早くから社会課題を意識され、この大組織でイノベーションを進める難しさは想像に難くありません。いまの坪井さんを形づくった原体験はあるのでしょうか?

坪井:90年代後半、顧客や消費者からの電話問い合わせに対してオペレーターを振り分け、通話記録を残して顧客情報を一元管理するコンタクトセンターシステム「CTstage」を立ち上げたことが、自分の大きな糧になっています。

ここでの大きなチャレンジは、Windowsサーバーを使って、信頼性に不安があると言われていたUnPBXモデル(企業向け電話交換機であるPBXを使わず、コンピューターサーバーだけで完結させるモデル)でコンタクトセンターシステムをつくり上げること。そして、まだ40代前半の課長職だった私が社内ベンチャーのトップとなり、100名弱の若手メンバーを率いることでした。

社内ベンチャーというと華やかに聞こえますが、実際は苦労の連続でした。社内からは少なからず懸念の声があったことは事実です。電話通信の安定性の高さをコンピューターサーバーで実現できるわけがない、と。ノウハウも足りず、多くのお客様から叱咤激励を受け続けていましたね。

品質を安定させなければ、お客様の売上も減ってしまう厳しいサービスですから、お客様の期待になんとか応えたい。そして、アメリカで先行していたオープンシステムのモデルを実現したいという一心でした。開発段階は失敗の連続で、いま振り返ると「アジャイル開発」をやっていたように思います。結果として、国内トップシェアの製品に育てられたのでよかったです。



安田:当時の日本は、ハードもソフトも自前でやる時代でしたね。複数のメーカーの製品やサービスを組み合わせて、オープン化するのは外資系企業しか手がけていませんでしたから、大きなチャレンジだったことがわかります。

坪井:そういう時代でしたね。私自身の経験として、オープン化の重要性をこのタイミングで理解できたことは、いまのDX戦略の礎になっているように思います。

「AIエッジ戦略」においては、Googleさんをはじめ100社ほどの「AIエッジパートナー」企業様と協業しています。こうしたアライアンスや、ものづくりにおけるDXは実際に経験してきたことなので、決してお仕着せの話ではなく、その重要性を私は心から訴えることができるのです。

DX新時代で “付加価値の高い人材” になるために必要な要素とは?

安田:最後に、未来を担う若手に伝えたいことがあれば、ぜひメッセージをお願いいたします。

坪井:情報通信業界に40年携わってきた立場から見て、このDXのムーブメントは、日本におけるIT化の遅れを取り戻す最大のチャンスだと思っています。

いまのAIは大量のデータからモデルを作る機械学習モデルに基づいています。これからの時代を担う世代は、データサイエンスの知見と、その基礎になる統計知識があると、付加価値が高い人材になれるのではないでしょうか。さらに、グローバル化が進む世の中では、英語力も必須です。

また、データを扱うにあたっては、その内容を正しく理解しないといけませんから、業務知識も求められます。IT技術力と業務知識の両方を備えているビジネスパーソンは、活躍の幅が広がるでしょう。

私も会社人生のラストスパートを迎えていますから、次世代に継承していきたいことが多くあります。露骨に言うと嫌がられてしまうので(笑)、対話を重ねて、若手が腹落ちできるように伝えていきたいですね。



坪井 正志(つぼい・まさし)◎慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、1983年4月、沖電気工業株式会社に入社。同社通信システム事業本部企業ネットワークシステム事業部長、ソリューション&サービス事業本部情報システム事業部長、情報通信事業本部本部長、常務執行役員などに従事。2020年4月より専務執行役員、2022年4月よりデジタル責任者に就任し、現在に至る。

安田 稔(やすだ・みのる)◎1985年、明治大学 工学部卒業。デュポン・ジャパンでの営業経験を経て、1994年、コンパック日本法人入社。以降ITトップカンパニーで事業責任者を歴任。2015年8月、レノボ・ジャパン入社。同年レノボ・ジャパン 執行役員専務、NECパーソナルコンピュータ 執行役員に就任。2018年5月より、レノボ・ジャパン執行役員副社長。

日本のDXを牽引する “IT改革者たち” の脳内
第1回 丸井グループ 海老原 健氏 
第2回 沖電気工業 坪井 正志氏(本記事)
第3回 マツダ 木谷 昭博氏
第4回 明治安田生命保険相互会社 牧野 真也氏
第5回 三菱電機 三谷 英一郎氏

Promoted by レノボ・ジャパン / text by Takako Miyo / photographs by Yutaro Yamaguchi / edit by Kana Homma