ドバイに「泳げる看板」が出現 アディダスの水着コレクションで

アディダスのキャンペーン「Liquid Billboard」

中東ドバイのビーチに突如出現したのは、人々が実際に泳げるように製作された、水槽型の屋外看板。

5メートル×3メートルあり、1万1500ガロンの水が入れられるものだ。リキッド・ビルボードと呼ばれたこの屋外看板は、アディダスの“インクルージョン”を掲げる新たな水着コレクションのためのものだ。

多様な人々が快適に使える水着に

インクルージョン(inclusion)は“包摂性”という意味で、英語圏では、ダイバーシティ(diversity)という言葉とセットでD&Iとして使われ、“多様性と包摂性”と訳される。この概念を把握するのは簡単ではないが、多様性は事実や状況であり、包摂性は“多様性を活かす”実際の行動や仕組みを表す、と筆者は理解している。

つまり、今回アディダスが発表したのは、体型・民族・能力・宗教に関係なく、多様な人々が快適に使える水着コレクションということになる。


Liquid Billboard (The world's first swimmable billboard) | adidas

このキャンペーンは、2022年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2022で、アウトドア部門グランプリなどを受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。

水は「障壁」の象徴だった

事例ビデオなどによれば、世界の女性の32%が人前で泳ぐことに抵抗があるという。中東ではその数字は88%にもおよぶ。彼女たちは、モデルやプロの水泳選手が登場する水着の広告を見るにつけ、自らの身体に対する自信をなくしていく。

また、世界の他の地域では水が「自由」を象徴するのに対して、中東や北アフリカ地域では、水は「障壁」の象徴とされる。そうした状況下にあるドバイでも、水をパーソナルな快適さや自由の象徴とすることを目指したという。

そこで、アディダスのリキッド・ビルボードでは、多様な一般人が実際に水の中に入って泳げるようにし、その様子を街中の巨大デジタル・サイネージにも配信した。さらに、それぞれの人をフィーチャーした、水着コレクションのポスターも作成した。



イスラム教信者らしき人、妊娠している女性、身障者の方…。今までであれば水着コレクションの広告には登場しなかったような多様な人々が、このリキッド・ビルボードの水の中に入って泳ぎ、巨大デジタル・サイネージに映し出され、個々のポスターに収まった。
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文=佐藤達郎

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