経営・戦略

2023.03.15 08:45

いま話題の「リスキング」すし屋の大将が獲得した新技術とは?

中山亮太郎のビジネス夜明け前

ここ1、2年で、「リスキリング(Re-skilling)」という言葉がビジネス界においてすっかり定着した。リスキリングとは、新たなビジネスモデルの出現や時代の変化などに対応すべく、業務上で必要となる新しい知識やスキルを学習・習得し直すことを指す。

コロナ禍によりあらゆる方面でDXが加速したことで、データ活用やデジタル化に強い人材のニーズが高まった。社を挙げて人事施策を打ち出した企業も多いだろう。最近ではDXスキルだけでなく、時代に応じた幅広いスキルの習得も活発になり、リスキリングビジネスはさらに大きく広がっている。

「リスキリング」という言葉自体は新しいものかもしれないが、社会環境の変化に合わせて新たな技術を身につけ仕事に生かすこと、それ自体は何ら目新しいことでも、特別なことでもない。これまでも、古今東西の老若男女が行ってきたことであり、結局そうやって変化に対応して進化した人間だけが生き残ることができるのが世の常だ。

それは何も企業内だけで起きている事象ではなく、より身近な生活でも起きている普遍的なものだと、先日あらためて気づかされる機会があった。

渋谷に「やじま」というすし屋がある。私が社会人になったばかりのときに当時の上司に連れていってもらい、それ以来17年近く通い続けている店だ。小山薫堂さんの言葉を借りるなら、おいしいだけでなく食べたあとに幸福感に包まれる、まさに私にとっての「ふくあじ」だ。気がつけば大将は70歳を越え、私も40代の仲間入りをした。

通い始めた2006年当初はお客さんのほとんどが日本人で、外国人はほとんど見かけなかった。だが、外国人観光客が初めて2000万人を超えインバウンドが急速に活性化した16年ころから、外国の観光メディアやSNSに取り上げられるようになり、徐々に外国人客が増えてきた。大将も女将さんも海外経験はなく、英語を使ったこともほとんどなかったわけだが、私が店を訪れるたびに女将さんの英語力はどんどん上達し、日本語ができない観光客でも安心して訪れることができる店に進化していくのを感じていた。

英語でオヤジギャグをさく裂させる大将

コロナの影響で外国人の客足は一時やんでしまったが、昨年末から再び一気に増え、最近はお客さんの8割が外国人観光客で埋まり、毎日満員御礼な状態だという。

私もつい先日、今年になって初めて店を訪ねた。まさに8割が外国人客だったのだが、驚いたのは女将さんの英語力の上達だけではなく、大将が英語でオヤジギャグをひっきりなしに繰り出し、それが見事に伝わっているようで外国人客を笑わせていたことだった。もともと常連客にとってはオヤジギャグで有名な大将だったが、まさかそこもグローバル対応していたとは、と私も笑ってしまった。これも見事に時代の波に乗った「リスキリング」だと感服した。

マクアケの社内にも積極的にリスキリングに成功した社員が何人もいる。エンジニアに転身した者もいれば、営業職からデータアナリストのスキルを身につけた者、管理部門をどんどんデジタルツールでDXしている者など、時代の変化を見据えて必要なアップデートに果敢に挑んだ結果、大活躍している。

時代が変わるタイミングは、平時の努力の何倍も成果のレバレッジが効くときだと私は考えている。それがまさにいまだ。70代であるやじまの大将や女将が必要な技術を「リスキリング」している姿を見て、いくつになってもそれは可能なのだと、人生の先輩に背中で教えられたような気がする。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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