キャリア

2023.03.13

俳優・佐藤浩市の仕事論──なくならないものを大事にせよ

佐藤浩市(Getty Images)

例えば、30代半ばの1994年、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」に出演したとき。当初は別のキャスティングを考えていた深作欣二監督に、自分の考える主人公、民谷伊右衛門を演じたいと迫ったのです。
 
「当時、年齢的にも精神的にも、こういう男は自分のなかにある、そう感じていたのが、伊右衛門だったんです。エゴイスティックに生きようとしながら、自分自身に負けてしまう。人間って、そうだよなと。この役は絶対に自分のものにしたい。そう思いました」
 
この役で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を手にするのです。さらに、2008年には、三谷幸喜監督の「ザ・マジックアワー」で初めてコメディ映画に主演します。
 
「ひとつの役が当たると、どうしても同じような役の依頼が来るんです。それはそれで、期待されていることだから、と思う面もある。でもその一方で、そうじゃないだろうとも思う。むしろ、それではいつまで経っても俳優としての引き出しは増えないわけですから」
 
若い頃は、自分のなかにあるものをできるだけ使い、それを役にどうリンクさせるか、考えていたといいます。しかし、やがてわかっていったのは、自分自身に近い役を演じ切っていくことの難しさでした。
 
「思ったほど突き抜けられないんですよ。むしろ、つくり込んだかのように見えてしまう」
 
それがわかり始めたのは、30代で「お行儀のよくない人間の役」をやったときでした。
 
「若い頃はずいぶんお行儀のよくない人間でしたからね。やっぱり、うまくいかなかった(笑)。むしろ、近すぎちゃいけないんだとわかりました。自分から遠い役だから客観的に俯瞰して見られるんです」
 
かつては現場で声を荒らげたこともありました。監督と怒鳴り合いをしたこともあった。しかしやがて、現場以外での戦い方を学んでいきます。
 
「でも、やっぱり僕という人間は……丸くはないですね。通さないといけない筋は通します。こだわることにはこだわります。頑固です。背中を押されたり、突き飛ばされたりするくらいなら、自分で崖から飛び降りたいと思っています」
 
極めてリアルで冷静な目線と、仕事に真っ直ぐに立ち向かう強靱なプライド。日本を代表する俳優の奥深さを学べたインタビューでした。

文=上阪徹

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