キャリア

2023.03.13 18:00

俳優・佐藤浩市の仕事論──なくならないものを大事にせよ

「いちばん苦しかったのは、20代でしょうね。表現をつくり込んで“する表現”をしていくのが親父のスタイルで、そのアンチテーゼとしての“しない表現”にこだわった時期です。
 
それこそ仕事の売り込みも何もしなかったから、どんどん仕事がなくなっていった。それでも仕事をもらわなくてはという強迫観念はありませんでした。何年かに1本、きちんとした仕事をすれば、それでいい。そう思ってはいましたが、きちんとした仕事をするために、自分がどうすればいいのかがわからなかった」

自分を支えていた負のエネルギー

負のエネルギーだけでは目の前の坂を上りきれないことに、やがて気づき始めます。その気づきを与えてくれたのが、33歳のときに出演した映画「トカレフ」の阪本順治監督でした。
 
「お前、友だちいないだろう、といきなり言われた。でも、オレも同じだ、と」
 
この映画で佐藤さんは高い評価を得ます。そして、まわりに対する自分の見方も変わっていきました。人のやさしさや愛情で支えられるものがあること。作品に向かう、ひたむきな姿勢。役をつくり込んでいく意味。
 
「言ってみれば、正のエネルギーとでも言うのかな。その方向に次第にバランスを移していくことができたんだと思う。ただ、何が自分を支えていたのかといえば、やっぱり負のエネルギーでした。それは自分にとっては、絶対に失いたくないものだったし、なくならないものだったから」
 
やがて、自らの巨大な負のエネルギーを抱えたまま、少しずつそのコントロールに成功するようになっていきます。そしてその頃から、役に恵まれなかった20代の頃が嘘のように、次々とチャンスが訪れ始めるのです。
 
「何が自分を築き上げたのか」そんな質問に対して、佐藤さんから戻ってきたのは、「運」という言葉でした。その運が上昇気流をつくっていったのだと。そして運と自覚していたからこそ、行動を伴うことができたのです。

「得た運を確実に取り込まなければいけない。それは認識していましたね。主役だろうがそうじゃなかろうが、ここは絶対に勝負どころだ、落としちゃいけない。そういうカンが働くんですよ。昔から、そういうカンだけはしっかり働いた。ギャンブルはまったくダメなんですけどね(笑)」
次ページ > 「突き飛ばされるくらいなら、自分から飛び降りたい」

文=上阪徹

タグ:

連載

The Saying

ForbesBrandVoice

人気記事