たとえば、英大手金融機関HSBCホールディングスは2022年7月、外資系金融機関としては初めて、中国の証券子会社内に党委を発足させたが、同社はそのとき、これによって同社の方向性が左右されることはないし、党委が日常業務で正式な役割を担うこともないと述べていた。
しかし、中国全国人民代表大会の開催を前にした2023年2月末、4大監査法人の1つである会計事務所EY(アーンスト・アンド・ヤング)の中国部門(EYチャイナ)北京支社内に設置された党委が、党員に対して党員バッジの着用を求めたことが報道された。
西側諸国の金融機関内に党委が設置されたからといって、中国共産党がその顧客の資金を管理下に置いたことにはならないだろう。しかし、中国で事業を展開する西側企業にとって「党委」はトラブルをもたらす可能性がある。
中国共産党は、法律を盾にして領土拡大を試みるローフェアや、法律を巧みに活用して戦略的目標を達成することにかけては達人だ。近年は法的手段を繰り出し、いくつかの改革に着手して、実業界における党の支配力を強めてきた。
中国政府は2020年1月、すべての国営企業に対して、定款を変更して企業統治体制に共産党員を含めるよう義務づけた。これにより中国の国営企業は、中国共産党の党書記を取締役会議長に任命し、党委を設置して共産党の活動を推進し、政府の政策を推し進めていかなくてはならなくなった。
中国共産党中央弁公庁は2020年9月に報告書を発表し、中共中央統一戦線工作部(UFWD)に対し、民間セクターで共産党の思想と影響力を広めるよう命じた。そこに盛り込まれていたのが、企業統治のあらゆる側面に党の指導を統合させることだ。
中国証券監督管理委員会(CSRC)は2022年夏から、外資系金融機関にも党委設置を義務付けるべく動き始めた。中国企業に設置される党委は、労働組合としての役目をもつが、一方で、企業幹部に党員を送り込むための手段にもなる。中国共産党の狙いは、民間企業を支配下に置いて連携し、国家目標を確実に達成させることのようだ。