しかし、経済学における厳密な分析によると、支給額の引き上げや税軽減措置は、出生率上昇の効果はあるものの、費用対効果はよくないという(山口慎太郎著『子育て支援の経済学』日本評論社、2021年刊)。児童手当や減税により子どもにかけられるお金が増えると、私立の小学校を選択するなど、子どもの「質」の向上を目指すことも可能になり、出生率の向上は限定的になるからだ。
費用対効果の高い少子化対策は、保育支援(待機児童解消、保育所増設、保育料改革)だとされている。保育支援は、母親のキャリア継続も可能にする。保育所が充実していない場合には、母親は(一時的にせよ)キャリアを中断することになるので、給与が高いほど「得べかりし利益」の損失(機会費用と呼ぶ)が大きくなり、出生率は逆に下がることが知られている。待機児童の解消など保育の充実によるキャリア継続が可能な場合には、出生率は上がる。
N分N乗の提案を除いては、これまでの政策の拡大、延長であり、「異次元」とはいえない。そこで、異次元の少子化対策を、勝手に想像してみた。
第一に、保育所・幼稚園の質的な充実だ。送迎バスで置き去りになり幼児が死亡したり、保育士が幼児を虐待したりという痛ましい事件が起きたが、保育所の人手不足も原因のひとつだ。さらに、保育士の給与が低いために、適切な人材を確保できていない。
保育士の配置基準も、1〜2歳児の場合、保育士1人に対して子ども6人だが、3歳児になると子ども20人、4歳児以上は30人だ。保育士ひとりで3歳児、4歳児をそれだけ見ることができるのか。高い訓練を受けた保育士をより多く配置するように補助を出すのは、最も費用対効果の高い少子化対策である。