もちろん、未婚率の上昇の理由は多岐にわたるが、若年層の所得が低いことも大きな理由だろう。最大の少子化対策は、結婚・出産を経済的な理由で躊躇しないような給与、時給を実現することだ。大卒・高卒のそれぞれの初任給は1995年以降、ほとんど変わっていない。
そもそも終身雇用・年功賃金制では、若年層の賃金は、その働きに比して低く抑えられ、毎年少しずつ(年齢に応じて)上昇していく仕組みになっている。高度成長の時代には、生涯賃金を人生後半に手厚くすることで終身雇用を促し、終身雇用を前提にその会社でしか通用しないスキルをたたき込んでいた。しかし、現在では中途退職、中途採用は当たり前になりつつあり、若年層の(働きに比べての)低賃金は合理性を欠いている。大企業は、年功賃金を早急に是正するよう誘導すべきだ。
第三に、公立学校の教育の質の向上だ。義務教育に加えて高校も無償化すべきだという提案も出ているが、それよりも重要かもしれない。いまや公立の教員の職場は低賃金、長時間労働という「ブラック」な職場ということが広く知られている。教員の採用倍率は00年以降、低下の一途をたどり、定員充足もおぼつかなくなっている。
人手不足であれば賃金引き上げが当然の対応のはずだ。公立校がしっかりとした授業内容を提供すれば、私立中学・高校に進学しなくてもよいという家庭も増え、子どもにかかる費用の低減につながる。出生率の引き上げへの貢献が期待されるので、教員給与の引き上げが有効である。「異次元」というのであれば、少子化対策として費用対効果が示されている政策を中心に据えるべきである。いままで不可能と思われてきた、縦割りを打破するような改革をしてほしい。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。