このコンセプトが持つ多くの要素をひも解くため、筆者は設計者のジョゼフ・フォラキスに話を聞いた。
ミラノとニューヨークを拠点とするデザイン企業Forakis Design(フォラキス・デザイン)を創業したフォラキスは、人工知能(AI)によりデザインを自動生成する「ジェネレーティブデザイン」を積極的に活用しており、最新プロジェクトであるペガサスはそのポテンシャルを示すものだ。
ペガサスは、3Dプリンティング技術を使って建造可能なヨットで、自然と調和するデザインになっている。まるで船が波間に姿を消したかのような効果を生む反射性の「ソーラーウイング」を備えるほか、太陽光発電と水素を用いたハイブリッドシステムにより、温室効果ガスの排出量はゼロとなっている。
また、フォラキスが「ツリー・オブ・ライフ」と呼ぶエリアには、複数層のハイドロポニック(水耕栽培)装置が設置され、乗客が新鮮な食材ときれいな空気を楽しめるようになっている。
筆者は、このヨットの背後にあるコンセプトや技術について、フォラキスに話を聞いた。
──この野心的プロジェクトのきっかけは?
私は新たな技術や素材、プロセスに情熱を持っている。(サステナブルデザインの第一人者)エツィオ・マンズィーニの言葉を借りると、これらは新しい「発明の材料」を与えてくれるものだ。
デザイナーにとっての「発明」や「発見」とは、新たな問題や古くからある問題に対する新たなアプローチや解決策を見つけることだ。芸術家にとっては、新たな現実や行動を表現するための新しい表現方法を見つけることにある。
私は、環境と調和したかたちで人間のニーズを満たすことに関心がある。セーリングは自然を身近に感じるすばらしい方法ではあるが、モーターヨットは資源の無謀な搾取の象徴となった。ペガサスは夢ではあるが、サイエンスフィクションではなく「サイエンスファクト(科学的な事実)」に基づく真剣な夢であり、認識や現実の両方の面でモーターヨットの現状を根本から変えようとしている。
徹底的な調査を行い、既存技術に基づいたコンセプトをつくった。こうした技術は今後、拡大した規模での実用化に向けてさらなる開発が必要となるものだ。野心的な目標ではあるが、2030年までに達成できると考えている。実現すれば、ヨット業界だけでなく海運業などの分野を直接変革できる。
2030年までの建造を目指す「ペガサス」(FORAKIS DESIGN)