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2023.03.20

木を溶かす技術で、日本を資源大国にしたい――ダイセルの挑戦とは

森林破壊が進み、自然災害が増えている。山林に経済的価値を見いだせない林業従事者が激減し、“森を整えなくなった”ことに起因するといわれている。

この解決不能とも思えた社会課題に独自の視点で切り込んでいく改革者がいる。

内外の製造会社から注目を集める「ダイセル式生産革新」を創出したことでも知られるダイセル社長、小河義美だ。現在、構想から実行フェーズに移行した「バイオマスバリューチェーン」について聞いた。


我々は、本当に森を使えているのか

日本の国土の約7割は森林で、しかも戦後の復興計画の中で植樹された人工林が大半を占めているという。適切な管理が行き届かない人工林は木々が込み合い、地表に太陽が届かなくなるため草木が生えず、野生生物が居着かなくなる。すなわち生態系の破壊につながる。

さらに根の浅い針葉樹林で土砂災害が発生しやすくなるのは周知のこと。近年、多発する自然災害のニュースがそれを物語っている。また樹齢の高齢化によって、CO2の吸収量が減少するともいわれている。
 
もちろん、このまま放っておくわけにはいくまい。SDGsの中にもようやく森林保護に関する目標が制定されたが、それよりもずっと以前からこれらの課題に注目し、すでに自社の技術力を用いた循環型社会実現の可能性に着目していた人がいる。

それが、ダイセルの小河義美。業界内では名の知れた“名物社長”だ。小河は静かに私たちに、「森を整えるために、本当に森を使えていますか?」と問いかける。
 
「手入れが行き届いていないのは、スギやヒノキといった人工林ばかりではありません。自然に生育した広葉樹でさえ、うまく活用されていません。例えば、バイオマス発電でチップにして使っていますが、それでも20%から30%程度。廃材で割り箸を作っていますが、わずかなもので、これでは森林は整っていきません」(小河)

木材を溶かす技術で森林を整えていく 

森林の利活用が進まないのには当然、理由がある。

林業従事者の減少や輸入木材の増加もさることながら、単純に伐採から加工に至るまでの手間の問題、効率の悪さにあるのだろう。

小河はダイセルに入社して、主力商品である酢酸セルロースの生産を担当した際に、“木材を直接溶かすことができれば、さらに効率的に木材利用が進む”と気が付いていたという。
 
「酢酸セルロースは、植物由来の『セルロース』と自然界に存在する『酢酸』を原料として製造される、生分解性を持った素材。土壌や廃棄物中だけでなく、海洋中でも分解される。すなわち環境にやさしい“バイオマス素材”のハシリといえます。

ただ、この『セルロース』は、木材を直接原料にするのではなく、大量のエネルギーを使って木材からセルロースを取り出したパルプを原料としています。木材から酢酸セルロースまでの製造プロセスを考えると、木が解けないことでその生産工程が非常に長くなり、大量のエネルギーも消費しており、植物由来とはいえ環境にやさしい生産プロセスとは言えないと考えました」(小河)

“プロダクトだけではだめ。ピープル、プロセス、プロダクトの全てが環境に配慮されていないと意味がない……”。そこから小河の飽くなき探求――ダイセルの知恵と技術と強い意志を原動力とした、循環型社会実現に向けた挑戦が始まった。

本質を追い求め生まれたバイオマスバリューチェーン

その成果は早くも形になった。2021年、ダイセルの理念に共鳴した京都大学、金沢大学との共同研究により、環境やエネルギー的な負荷をかけず、樹木を超穏和溶解する技術を具現化。比較的低い温度で木材を溶かすことで、セルロースだけでなく、ヘミセルロース、リグニンといった、これまで有効活用されにくかった他の木質成分の資源化も可能になる。
 
もちろん、低エネルギー生産を実現する工程改革も進めてきた。そのベースとなるのが「ダイセル式生産革新」だ。ダイセル式とは小河が90年代後半に主導した工場のプラント運転における革新手法で、ベテラン操作員の運転ノウハウを全て洗い出して標準化し、圧倒的な生産効率のアップを実現した。

その手法は、国や企業からも注目され、名だたるメーカーが1,000社以上見学に訪れているという。

「大切なのは工程をシンプルにすること。それがエネルギーレス生産へとつながります」(小河)
 
小河の挑戦は、留まるところを知らない。真の意味での循環型社会を実現するには、ダイセルだけが取り組んでも意味がない。
 
「上流から下流まで見渡して、産業構造そのものを抜本的に見直し、徹底的に無駄をなくす必要があります。タンクや倉庫をなくしたらいい。なくせば物流もさらにシンプルになります。繰り返すようですが、ピープル、プロセス、プロダクトの全てがサステナブルでなければ、サステナブルな物を社会に出したことにはならない。それは自社だけでなく、産業全体として考えるべきテーマです」(小河)
 
単なるお題目ではなく、本質的なSDGs社会の実現に全力でアクションを起こす。小河の徹底姿勢から生まれたのが「バイオマスバリューチェーン」構想だ。
 
「環境に負荷をかけずに丸ごと木を溶かす技術は、農林水産業の廃棄物の再資源化も可能となります。有価で処分される一次産業の素材を工業原料として活用し、一次産業と二次産業に循環を生む、この経済循環により林業を復活させて、放置されている森が再生されます。

新しい木を植林する際に、深く広く根を張る広葉樹の森に戻せば、山の保水力もあがり、土砂災害の起きにくい土壌に戻すこともできます。木材のサステナブル利用で、日本を資源大国にする、それは当社だけでなく、産学官の垣根を越えた共創で実現していきます」(小河)

サプライチェーンと循環型社会実現はダイセルのルーツ

現在、川上から川下まで、サプライチェーンでつながる複数の企業間で、生産情報を一元管理してあたかもひとつの会社のように運営する「バーチャルカンパニー構想」を進めているという。

「水平統合でなく垂直統合です。お互いの事業領域がオーバーラップしないので、比較的オープンにディスカッションがしやすい環境になっています。成果が出たら分配する、それだけを決めて、あとはオープンイノベーションで進める。何だったら、特許も放棄してもいいとさえ思っています。もはや自社の利益のためだけという考え自体、古いし、意味がありません」(小河)
 
歴史と伝統を重んじる重厚長大な日本企業ほど自社の技術やノウハウ、特許を囲い込みがちだが、どうやら小河の中にはそういった既成概念はなさそうだ。フラットな姿勢の小河が中心にいるから話がまとまるのだろう。
 
「技術の根幹は、各社一緒です。問題は意識が違うだけなのです。そう考えると、世界の製造業はひとつになれる。ですから、いがみ合わずに力を合わせた方がいい。人間はそんなに変わらないですし、同じものしか持っていません」(小河)
 
さらに小河は、サプライチェーンに対する思いの強さは何も特別なことでなく、ダイセルのルーツに根差す共通意識だと説明する。
 
「祖業であるセルロイドの原料は、クスノキから採取される樟脳。主要産地であった台湾で乱伐が進んでいました。現地を視察した弊社の初代社長が『こんなことをしていたら長続きしない。原料から樹脂生産、川下の樹脂加工業界まで、共存共栄できる体制を作らなければならない』と考え、川上、川下の各業界にも働きかけました。

今考えると、当時としては大変画期的な考えでしたね。さらにいえば、私たちは昭和50年代から公害問題だけではなく、省エネでいち早く取り組んできた会社です。SDGsというのは目的ではありません。循環社会を作るとするならば、どのような省エネを実現するかを考え、アクションを起こすことが重要です。

それは我々からしたら、自然に代々、先輩から伝えられてきた昔ながらの取り組みといえます。つまり、ダイセルは、創業時から長きに渡り、サプライチェーンと自然環境の保全にきちんと向き合ってきた会社ということです」(小河)
 
“環境保全と経済活動の両立は難しい”と考える企業経営者も少なからずいるが、ダイセルの歩みを見ると、それは単なる言い訳のように映る。

「私の体験から、エコロジーとエコノミーは両立しないという考えは嘘だと思います。エコロジーとは、本来、無駄を取り払うことが重要で、無駄を取り払うことは絶対に、エコノミーに効いてくる。だから、エコロジーとエコノミーは両立しないということは、無理をしているということで、そのほうが自然に反します」(小河)
 
次々に“革新的”なアイデアを“具体的”にカタチにする改革者。そんな小河が無私の姿勢で推し進める「バイオマスバリューチェーン」の今後に注目したい。


小河義美(おがわ・よしみ)◎1983年ダイセル入社。 2019年に代表取締役社長に就任し現在に至る。 90年代後半、同社の次世代型化学工場構築プロジェクト推進室長として、素材産業における生産性向上手法「ダイセル式生産革新」を考案。

Promoted by ダイセル / text&edit by 伊藤秋廣 / photograph by 菅野祐二

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