宇宙での定住が可能性を増すにつれ、問題視されている課題の一つが「重力」だ。無重力や、月や火星などの低重力の環境下において、長期間の生活は筋肉の衰えや骨密度の低下、妊娠・出産や子どもの発育にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。
月や火星で人類の衣食住を可能にし、社会システムを構築するためには、どのような観点や技術が重要になるのか。京都大学(大学院総合生存学館 SIC 有人宇宙学研究センター)と共創し、人工重力施設「ルナグラス・マーズグラス」を構想する、鹿島建設・大野 琢也氏に話を聞いた。
大野琢也氏。鹿島建設 関西支店 建築設計部 副部長・技術研究所 上席研究員 兼 京都大学大学院総合生存学館ソーシャルイノベーションセンター有人宇宙学研究センター SIC特任准教授
宇宙における「人類の世代交代」の壁
──人工重力施設をつくっている大野さんですが、人類の宇宙進出にとって「重力」はなぜ重要なのですか。宇宙空間で人間が生活する上で、空気・水・食糧といった生存基盤に関わる要素の技術研究は目まぐるしく進んでいますが、重力を人工的に生み出す研究はまだ十分にはされていません。
重力は、宇宙空間における衛生管理や掃除、排便など、生活の不便を解消するためにも必要ですが、それ以上に無重力空間では身体への影響が深刻です。宇宙空間はフワフワと気持ちよさそうに漂える印象を持っている人も多いかと思いますが、これに慣れすぎると心循環器・骨・筋肉の機能が日を追うごとに衰え、再び地球の1Gの重力環境に戻って暮らすことが難しくなっていきます。
──でも、ISS(国際宇宙ステーション)などでは、かなり長期にわたって滞在する人もいますよね。
長いと6カ月ほど滞在する方もいますが、そうすると地球に戻っても1カ月間はリハビリが必要になります。当然、それを見越して宇宙飛行士の方々はステーションで毎日ハードなトレーニングに励んで身体維持に務めるわけですが、これから一般の方々も宇宙空間に移住する未来がやってきた時に、老若男女全ての人々がそのトレーニングを適切に行うことは難しい。