パート1が「エブリシング」、パート2が「エヴリウエア」、パート3が「オール・アト・ワンス」と題された3部構成にはなってはいるが、3の部分はほんの僅かで、1が作品のかなりの部分を占めている。
まずは趣向が凝らされたアクションシーンをシンプルに楽しむのがいいかもしれない。特にパート1の国税庁の庁舎内でのカンフーアクションは、マルチバースを往き来しながら展開されていくため目まぐるしいが、余計なことは考えずに観たほうがよりこの作品を面白く観賞できるかもしれない。
とはいえ「エブエブ」は、ただアクション作品として最後まで進んでいくのではない。パート2とパート3では、しっかりと登場人物の心のうちまで描くという流れもある。そのあたりの匙加減がまた、多くの観客の心を掴んだ理由かもしれない。
最多ノミネートのジンクス
監督の「ダニエルズ」だが、実は中国系のダニエル・クワンと大学で出会ったダニエル・シャイナートのユニット名だ。2人はまずミュージックビデオの監督として頭角を表し、数々の有名アーティストの作品を送り出す。2016年に「スイス・アーミー・マン」という異色の作品で映画界にも進出。インディペンデント系の作品を対象としたサンダンス映画祭では監督賞を受賞している。
その「スイス・アーミー・マン」は死体を利用して主人公がサバイバルしていくという奇想の作品。例えば膨れあがった死体をジェットスキーのように利用して海を渡ったり、その死体が突然喋り始め道中を共にすることになったり、とにかくユニークな設定に満ちた作品なのだ。その意味で言えば、これまでにない発想で描かれた「エブエブ」の萌芽は、すでにこの作品にあったかもしれない。
「エブエブ」では、それこそ万華鏡のように展開されるマルチバースの映像も見どころの1つだ。主人公のエヴリンが、バースジャンプをして体験する多元世界では、彼女は世界的大スターであったり、指がソーセージのようになる人物であったり、無人の荒野に置かれた石になっていたりする。このマルチバースこそ、誰もが何にでもなれるインターネットの世界を象徴しているようにも思える。