政治

2023.03.06

疲弊したロシア軍にとってバフムートでの勝利は後の敗北に繋がる

Getty Images

ウクライナ軍が同国東部の要衝バフムートから出る道は2本しかない。ロシア軍はその両方をロケット弾の射程圏内にとらえている。つまり、9カ月におよぶ激戦を経て、バフムートの戦いはいま決定的となり得る局面を迎えている。

ロシア軍が2本の道路に接近し、ウクライナ軍は包囲を回避するために退却する。あるいは、ウクライナ軍が反撃してロシア軍を後退させる。今後、数時間から数日の間に2つの出来事のうちの1つが起こる可能性がある。

前者であればバフムートをめぐって長く続いた恐ろしい戦いは終わる。後者は戦いを長引かせる。いずれにせよ、最終的な結果は同じであるはずだ。事実上、廃墟と化したバフムートを占領しようがしまいが、ロシア軍は戦力を大量に消費した。

これはまさにウクライナ側が望んでいたものだったようだ。ウクライナ軍はロシア軍を消耗させるためにバフムートと、ロシアのこの町に対する奇妙な執着を利用し、そうすることで時間をかけて練られた春に行う攻勢のための条件を整えた。

ウクライナ軍が米国とスウェーデンから得た戦闘車両や英国、ポーランド、ドイツ、カナダから送られた戦車で最終的に攻撃するとき、疲弊したロシア軍の旅団と対峙する可能性がある。その中にはバフムートでの長い戦いで何千人もの兵士を失った旅団もあるだろう。

ロシア軍は、ウクライナ東部ドンバス地方の大都市の1つであるロシア占領下のセベロドネツクの南西に位置するバフムートを標的にする必要はなかった。バフムートの戦前の人口は7万人だ。

町自体にあまり価値はない。戦略的な産業もなければ、この上なく重要な物流施設があるわけでもない。住民のほぼ全員が町を離れたか死んだ。

しかしロシアの民間軍事会社ワグネル・グループが2022年5月に自らの戦闘力を証明するために選んだのはこのバフムートだ。ワグネルの指揮官たちは何カ月もの間、訓練不足の前科者を次々と前線に送り込み、ウクライナ軍の要塞に向かって特攻的に攻撃させた。

英紙ガーディアンによると、2022年にバフムート周辺で少なくとも4000人のワグネル戦闘員が死亡したという。今年初めから数週間かけて徐々に正規のロシア軍がバフムート周辺で戦う傭兵の多くに取って代わった。

この段階的な入れ替えにより「バフムート周辺でのロシア軍の作戦の主導権は保持された」と米シンクタンクの戦争研究所は説明している

1月12日にロシア軍はバフムートの北に位置し、入り組んだ塩鉱山の上にある小さな集落ソレダルを占領した。その後数週間かけてワグネル戦闘員と正規のロシア軍は北と南からバフムートの周囲をゆっくりと挟み撃ちにした。

3月1日までにロシア軍はバフムートの北西の境界からわずかのところにあるクロモヴェ集落の端にいた。クロモヴェを通る道路T0506号線はウクライナ側のバフムートへの北側の補給ルートだ。
次ページ > 賢明な指揮官は罠だと明らかな戦闘で、何千人もの命を無駄にしないはずだが

翻訳=溝口慈子

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

ForbesBrandVoice

人気記事